夜のきみ

 

なんか5歳ごろに虚無界に連れ去られて時期魔神として育てられたけど心は未だ優しさを失わず去勢を張って悪魔になりきるふりをして その裏では雪男と獅郎(健在)と物質界を守ろうと駆け回っている燐とそんな燐を振り回したりして楽しむメフィスト、一応物質界を魔神に渡したくないという利害一致はしているので、 共謀ってほどじゃないけどお互いを泳がせてる感じ(これでもメフィ燐)。 なパラレル。燐の口調と性格がまるで違います(魔神に従属してるようにみせるためで素はあまり原作燐と変らない感じだけどそこまで書けてない。一見スレ燐ですけど、そうではないと言い張る。続きません…。























「いい夜ですなあ」
大きな牡丹の繊細な刺繍が施されたイスに白い服に身を包んだ悪魔がいる。悪魔が座っているのはイスではあるがそれの位置する場所が普通ではない。 宙を浮いている。夏の終わりを告げる冷たさを含み始めたさらりとした夜の風に流されるわけでもなく、ふよふよ、と風船のように宙を漂っているのである。最も、 それは目的なく漂っているわけでもなく、イスに腰掛けている悪魔が常にこの夜景を楽しめるような規則性を持っていた。風にふかれ白いマントの端がゆれ、 悪魔は先ほどまで被っていたシルクハットを脱いでいるのでその風が直接肌と髪を撫でていく。憑依体の肌から髪から感じるそれは心地よい。肉欲の始まりに感じる欲にも似ている。 その仄かな快楽に細まる瞳は金を交えた緑色にぎらついていた。
悪魔が感嘆を漏らすほど、確かにいい夜である。
悪魔の足元には要塞を思わせるほど、建物と建物が密集し合いしかし説妙なバランスをもって一つの小高い峰のように形成されている。町の造りはこの国、日本の昔ながらの家屋を思わせるものはあまりなく、 どちらかというとドイツの古い町並みを思わせる石造りのものがほとんどだ。その要塞の中央にそびえ立つ古城のような建物。それこそが悪魔の本拠地ともいえる場所。 正十字学園である。悪魔はその学園の一等高い場所で先ほどからふよふよとイスを漂わせて夜景を眺めているのである。建物の窓から漏れる光は一等高い場所から見下ろせば、 はるか天に焦がれつつも昇れる力がないため下に留まり子孫を残す、一瞬の蛍の光のように見えた。目指す天は遥か遠い。悪魔にとっても遠すぎる。見上げれば、 街の光に消されることもなく金色に輝く丸い満月が浮かんでいた。悪魔、メフィスト・フェレスは先ほどから下界と天界の間を浮きながら、 カップ(白とピンクが混ざり合う色合いである)を片手に優雅な動作で琥珀色の紅茶を喉に落としているのである。中身がなくなれば同じく宙を浮いている繊細な花柄のポットから新しく湯気のたつそれが注がれ、 白い皿に乗ったスコーンやクッキーなどといった菓子が「わたしをたべて」といわんばかりにメフィストの手元の近くでふよふよと浮いていた。
「いい夜ですねえ」
メフィストは今一度同じ言葉を夜景の向こうの飛ばす。それを拾うものは誰もいないと思いきや、メフィストはある一点を見つめたまま、にやり、と鋭い牙を唇の端から覗かせた。

「そうは思いませんか? 我等の小さな末の弟よ」

ぼう。
何も存在しないはずの空中に円を描くように青い光が舞う。それは炎のようにめらりめらりと燃え上がり、人一人が潜り抜けられるほどの穴を開けた。
その何かを切り取ったらしい円の向こう側から、一人の少年が顔を覗かせる。
ひょっこりと現れた顔はまだその線にどこか幼さを残しつつ、青年への成長を思わせる鋭角的なものも見え始めている。色は白い。 というよりどこか青白い。血色のよさを感じさせないそれは、メフィストもそのような肌色であるのだが、少年の場合は長年太陽に当たっていないため 肌が光に焦がれて悲鳴を上げているように見えた。その青白い顔にある薄い唇も血の気がなく、白い。通った鼻筋に、鋭いが大きな青い目がある。その青い目は霧に覆われた湖のように、 どこか不透明だがそれさえ晴れればきっと極上の深い深いしかし夏の空のように透き通った青を見せるだろうことを思わせる輝きがある。ただしメフィストもその霧の下に隠れている青の輝きを見たことはない。
この先も、少年は誰にもそれを見せることはないだろう。
少年はゆったりとした動作で青の円を潜り抜けてきた。右手には青い炎に覆われる日本刀。黒い無地の裾の長いコートを羽織っていてその下はまだまだ成長することを思わせる、 少年の体があるのだろう。こちらも見たことはないのでメフィストは知らない。いつか暴きたいという欲は別として。


「…兄上」

血色の悪い唇が紡ぐ音は、変声期をほぼ終えながらまだ大人の疲労を含めた声よりは若いものである。
「結界を破るのは実にお上手になりましたね」
ぱちぱち、と紫の手袋をした手で拍手を送る。少年は無反応だった。能面のような動かない顔はいつも通りであるのだが、その下に隠す憤りをメフィストはしっかり把握している。なんだかんだで感情を隠すのがあまり上手くない弟なのだ。
「そんなところで浮いていないで紅茶とお菓子でもいかがですか? いい茶葉が手に入ったんですよ-------燐」
ぱちん、と指を鳴らせばもう一人分のカップが出現し(これは白と青の混ざり合う色合いである)、ポットがそこに温かい茶を注ぐ。 いい香りが鼻腔に流れ込んでくる。しかし、少年、燐はカップに一瞥もくれてはやらなかった。
「メフィストの兄上、今回の不浄王の件だが…どういうつもりだ…」
ここで初めて燐の能面のようだった表情が動く。きゅっと吠え出す前の子犬のように幼いシワが鼻先に寄る。
「どういうつもりと、いいますと?」
空惚ける悪魔に燐は、ち、っと舌打ちをした。
「もう少しで京都とやらが壊滅するところだったんだぞ。不浄王討伐に駆り出されていた…なんだったか…ああ、「祓魔塾」とやらの人間達も………奥村雪男と藤本獅郎も死ぬところだった」
「あなたが出て行かなければ確かに京都は壊滅でしたでしょうね、たくさん人間が死ぬところでした」
メフィストの遠まわしな言い方に苛立っているのか日本刀の柄を握る手がさらに白くなる。
「…おかげで俺は雪男と獅郎に見られた」
「それの何が都合の悪いことで?」
青い目が二、三度左右に漂い、ひたり、とメフィストを見据えてくる。
「…時期、魔神として振舞う正しく悪魔のご自分を愛しい家族に見られたのがそんなに、」
「黙れ、その減らず口を閉じろ」
ぼう、と青い火玉が飛んでくるがメフィストは軽い動作でそれを避ける。イスから立つこともしていない。それが燐とメフィストの今の力量差を現していて、燐はもう一度舌打ちをした。 お行儀が悪いですよ、とメフィスト自身の眉間をとんとんと叩き、シワの寄りすぎです、とついでにからかう悪魔。燐は、ますますシワを濃くした。
「案じずとも…最低でもあの二人は理解していると思いますよ。あなたが京都を…あの二人も含め多くの人間を救ったのだ、と。まあ、表向きは脆弱な人間達の努力と 明陀の使い魔である伽樓羅の甲斐あってというやや無理矢理な理由で不浄王討伐を成しえたということになってますがね。…全てを浄化したのはあなただ、いやあお見事でしたよ!  人間の体に入り込んだ菌まで浄化させるとは! また格段と炎の扱いが上手くなった!」
「……おかげでアスタロトの兄上の機嫌は最悪だがな。ペットを焼かれてしまったんだ。しばらくは俺の中傷でも漏らし続けるだろうさ。虚無界がますます陰気になる」
苦虫を噛み潰したような顔をするが、その奥ではまだ愛しい二人に信じてもらえているのではという希望の輝きが見えた。メフィストはそれを滑稽だとも哀れだとも思う。
そんな一瞬の輝きを見られたことに気付いたのか、燐は、また表情を繕った。固い糸で無理矢理自分の顔を縫っていくように。

「……貴様は一体何を考えている」

にやり、とメフィストは暗く歪んだ笑みを浮かべた。一見して無表情に見える燐だが注意していればその下に隠れる感情の波は読みやすいのである。それは若さ故か、それとも元々の「人間性」のせいか。 対してメフィストはどこまでも本心を読ませない悪魔であった。いや、メフィストはある意味自分の感情を偽ったことがないのかもしれない。だが、そうだとしたらより一層恐ろしい。 メフィストはどこまでもただ楽しんでいる。偽ることなくその享楽を前面に出しているほうがよほど性質が悪いというものだ。総じて悪魔にはそういったものが多いのだが、 メフィストは魔神の「兄弟」達の中で最も頭が切れるため厄介であった。
「利害一致はしているはずですよ、あなたと同じだ」
肩をすくめる様に燐は牙をむいた。
「…藤堂などという悪魔堕ちした卑小な「人間」と雪男を接触させたのもわざとだろう。…それに俺が不浄王を燃やしに出るしかないようにも仕向けた。このことが父上にばれれば… 何もかも水の泡だぞ!」
「そうならないように、私がちゃんと父上には目くらまししておきましたし、もともと父上は私の申し出を受けてます。あなたが時期魔神としてふさわしくない行動に出たとしても、ゲームの余興だとしか思わないですよ」

びゅ、

鋭い風が舞い、白く青く輝くむき出しの刀身がメフィストの太い喉に向けられていた。鋭い切っ先。それが首に走る血管にぎりぎり触れていた。

「あまり父上を見くびるな。炎(血)を継いだモノとして俺は奴を他の兄弟よりも理解しているつもりだ。あれは…紛うことなく神だ」

「………」

「聞け、メフィスト・フェレス。この先も悪魔と人間の戦いは激しさを増す。気がついた頃にはもう貴様の遊べる玩具は全てあのクソ野郎の玩具になって青い炎に覆われ、 足元に転がっているのかもしれないんだぞ、その中には貴様もいる!」

「おやおや、私の心配まで、」

「するわけがないだろう、バカが」

「………」

「貴様が死ねば、俺はこの世界を守りきれなくなる。俺も…いつ理性を失い時期魔神になるかもわからないんだ」

すうっと美しい線を描いて刀身が喉から離れた。薄い喉の皮は少し切れて赤い血が一筋首を伝ったが、それは数秒後には塞がり消えていた。その間もずうっとメフィストは笑みを消さない。

「もし、あなたのいうくだらない理性を失い…今のような虚勢ではない本物の悪魔に成ったときはどうされます?」

「その時は貴様が俺を殺せ」

迷いなく告げられる言葉にメフィストの口元からようやく笑みが消えた。だがそれは一瞬で、次には引きつったような高笑いが夜空に呑みこまれていく。燐はただ氷のような表情でそれを見つめていた。
「…くく、くくくくくっ! 本当はバカなんじゃないかと5歳のとき虚無界に来たあなたを見てから思っていましたが今ので確信しました! あなたは本物のバカですねえ!」
「…ああそうだ。今頃気付いたか」
ふ、っと自嘲のような笑みを浮かべて、燐は再び空中に円を描くように刀を振るう。おやもうお帰りで?と未だ腹を抱えるメフィストには頷きも返さなかった。

「…俺は、」

少年は炎で焼かれた空間の向こう、寒くて暗い悪魔の巣窟へと還るため。

「貴様に利用されていようと貴様の計画とやらに利用されていようと構わない。……俺も所詮は、道化だ」

すう、っと暗い底へ身をくぐらせる。

「それで守りたいものを守れるのなら、俺のことなどいくらでも差し出してやろう、メフィスト・フェレス」















「…いやあ、いい夜だ」
腕を組み、足元に広がる弱い人の光を見下ろす。その光は密集していて天へと昇ろうとする愚かな罪人のようで、その世界を守ろうという末の弟も結局この足元にいるのだろうか。それとも。 夜空を見上げる。金色の月は雲に隠されることもなくそこにある。はるか遠い遠い向こうに。人にも悪魔にも届かない。ならば悪魔であり人であり、それなのに人でありたいと未だ願い続ける燐はどこに位置しているのだろう。
ぞくり。
先ほど吐かれた言葉を反芻して、震える背筋が止まらない。それは今まさに肉を喰らう直前のあの弾ける寸前の情欲にも似ている。似ているのだ。メフィスト・フェレスは醜く顔を歪めて嗤った。


「ああ、早くあの夜の君が私(悪魔)の手に堕ちてくれればいいのに」

楽しいお遊戯はこれからだ。











これは、とても美しく哀れな夜のきみの話である。











2012.5.9