「私の子どもを生んでください、燐」
メフィストのやたらでかくてふわふわのベッドで。シーツもシルクなんだか何で作られているのか燐は知らないが、相変わらず驚くほどの滑らかな手触りである。
ぼんやりと飴色のランプのみがついた広い部屋はそれだけで仄暗く、その影を落とすメフィストの顔がいつもより一層色っぽく見えるなんて燐は言ってやらないが。
常にそう思っていた。そして今、こうしてベッドの上に放られて伸し掛かられているこの状況。不思議と前後が思い出せないが、酒を一緒に飲むようになってからはこういう記憶が曖昧になっている状況で
致すのはそう珍しくもないこととなったので、燐は特に疑問には思わなかった。
しかし、押し倒されて一番にその口から零れたこの台詞は少し、いや大分いただけない。
ムードが台無し、ぶちこわしではないか。別にムードにこだわるような女々しい性格はしてないつもりだが、
さあ今から久しぶりに思う存分イチャイチャしようぜ明日は雪男も海外任務でいねえし!なんて密かに心を躍らせていた自分の気持ちをどうしてくれる。
「帰る」
「いやあ、ちょっと待ってください燐、真面目な話なんですぅ!」
ちょっとばかし乱されたシャツを直しつつ腕の中から逃げだそうとすれば、そうはいくか、とばかりに抱き込まれた。苦しいだろ離せ、と訴えても離すわけがない。
「何がどう真面目なんだよ!?せっかくの夜なのにぶち壊しじゃん!そういう冗談止めろよな!」
「いや冗談ではなくて」
腰に抱きつくメフィストのアホ毛を引っ張ってやっても腕を離すつもりはないのか、いつもの隈の濃いタレ目を情けないぐらい下げまくっている。
その情けないというか見ようによっては捨てられた子犬のような何かを訴える目に、こういう関係を持ち始めた最初こそころっとほだされてしまったものだが、
なんだかんだで燐ももう25歳になりメフィストとの付き合いは藤本の墓の前で出会った時からカウントすればすでに10年を越えようとしていた。
この悪魔がどれぐらい姑息で狡猾かいい加減燐もその身を持って知っているつもりだし、今までこの顔に騙されてどれだけ無茶なお願いを聞いてしまってきたものか。
そのお願いも全てエロス方面なのでどうしようもない。
しかし今回だけは不可能だ。生物学的にも。
「俺もおまえも男じゃん!子どもなんて作れるはずねーだろ!」
「いえ、それができるから悪魔なんです!」
どんな理屈だそれは。
「あと相手が私だからこそできることなんです!」
「それもどんな理屈だよ!」
「…詳しくお聞かせしましょうか?」
にんまり、とまさに悪魔の笑みを浮かべて再びベッドに押し倒される。やばいこういう顔をしてるときのメフィストは非常にやばい。何がやばいって。
なんだかんだで燐のことを大事にしてくれている男だが、それ以上に己の欲望を追求する紛うことなく悪魔であるということだ。その欲望をこの10年一身に受けてきた燐の苦労をわかっていただきたい。
今まで縁を切らなかった自分を褒めてやりたいぐらいだ。惚れた弱みとはいえ。いや縁を切ろうとしてもこの悪魔は絶対虚無界の果てまたは悪魔にとって最も忌まわしい天国の果てまで追いかけてくることだろう。
「つまり、アインス、ツヴァイのドライであなたのお腹にちょちょっと細工をして…ああつまり子どもを作れる機能をですね、この薄い腹に無理矢理ねじこみ」
「ぎゃあああやめてくれええええ!」
全身が怖気だったではないか。想像するだけでも恐ろしい。
色々な生物学的な何かを無視して本当にやりかねない、いやこの男にならできそうなそれに燐は本気の恐怖を覚えた。
しかも腹をいやらしく撫でながら言うのは止めてくれ。燐は本気でベッドから逃げ出そうともがくが、ひょろいくせしてさすが悪魔。
メフィストの腕はやはりびくともしない。
「ねえ、燐、なんでダメなんですか!?」
「ダメに決まってんだろ!?男が子ども生むとかアインス、ツヴァイのドライでできちまうとか!狂気の笹だよおまえおかしいよ!悪魔にとってはできることでも、
俺は感性完全に人間なの!」
「…それを言うなら笹ではなくて沙汰ですが…。好きな相手との子どもを望むのはそんなにおかしいことですか?」
ぴたり。メフィストの縋るような言葉に不覚にも抵抗が止まってしまった。
出合って10年。所謂、こういった関係になってからはたぶん…18歳の時に手を出されてからだとすると7年。決して愛情表現の下手な男ではなかったし、
さすが紳士だのなんだの自称するだけあってむしろそういう点は非常に器用な奴だった。それでも未だにこうしてストレートに言われることには慣れないものだ。
というかちょっと嬉しいと思ってしまう自分も大概なのだが。
「い、いや…別におかしいことじゃ…ねえと思うけど…」
お互い男だということもあるし悪魔同士ということもあるし、今の今までそんなことを燐は考えたこともなかったが。確かに言われてみればなんだかんだで惚れいる相手との子どもが欲しくないわけではない。
「そうでしょう?方法は悪魔的でもこの感情は限りなく人に近いものだ…。私はもう気の遠くなるほど長い年月生きてきましたけど、相手との子どもが欲しいと思うなんて燐が初めてなんですよ」
抱き込まれて腕を離されてそっと手を取られては…燐も顔に熱が集まるのを感じる。が、いやいやいや、引っかかってはいけない。
確かにそういう感情はわかる。わかるのだが、どうしても燐は自分が子どもを生むなんてこと未知すぎて恐かった。当たり前だろう。
しかし眼前の悪魔は真剣である。真剣すぎて恐い。頭の片隅で「兄さんこれは罠だ誘いに乗るな!」といつか言われて雪男のセリフがそのまま再生されている。
「い、いや…でもやっぱりさ…ほら色々せけんてい?っていうのもあるし」
「そんなの私がどうにでもしてあげますよ。だからあなたは安心して私の子ども生んでください。さあ、覚悟を決めて燐、私のことを愛しているなら!」
「おまえええそういう言い方卑怯だぞ!ってコラやめろ!俺はまだ承諾してねえ!!」
ぼすんと、再び押し倒されてとても口では言えないようなところを触られる。いつもならその手つきにすぐに体は火照ってくるものだが、今回ばっかりは鳥肌が立った。
何をどうしてどうするつもりで男の自分を孕ませるつもりなのかこの悪魔。その不埒な手を思い切り握って引き離そうとするがまるで敵わない。
「い、いや、ちょっとやめてメフィスト!」
「やめるもんですか。あなただってモノ欲しそうな顔してますよ。素直になってごらんなさい。私との子どもも悪くないと思いません?」
「そりゃ思うけどなんで俺がこんな未知の恐怖を体験しなきゃいけないんだよ!」
「大丈夫、私がついてますから」
「答えになってねええええ!」
「いいじゃないですか、いいじゃないですか、恐怖も感じさせないほどあっという間に終わらせてみせますから☆ では、」
アインス、ツヴァイ、ドライ!
ここで燐の意識は一回暗転する。
「…あれ?」
起きた。
夢だった。チュンチュンというスズメの鳴き声に起こされたことをこれほど感謝したことがあっただろうか。冷や汗もかいていてちょっとばっかし不快だが、
手触りのよすぎるシーツがそれを吸収してくれるよう…。ってやっぱり燐はメフィストの寝室のベッドで真っ裸で寝転んでいたわけだが。ついでの横で背骨の浮いた背中を見せて寝こけているメフィストも、
当然のように真っ裸である。
ええと、とりあえず寝ぼけた頭を整理しよう、と燐は素っ裸のまま胡坐をかいて今さっき見ていた夢を頭の中で思い返してみる。
なんか前後がわからぬままメフィストに押し倒されていて急に「子どもが欲しい」
などと言われてすったもんだした挙句なす術なくアインス、ツヴァイのドライで暗転して。
あー夢でよかったあ!
燐は大きく息を吐いて胸を撫でる。
床に転がっている何本かのワインボトルでそうだ昨夜は久しぶりに二人で飲んでそのままなだれこんだのだ、と思い出す。
一体どこからが夢だったのか不鮮明だが、酔った勢いであったのなら記憶が曖昧なのも頷けた。
夢の内容を思い出した途端思わず腹に触れてみてもそこにはいつもどおりのぺったんこで腹筋の割れた腹があるだけだ。
…念のため自分の体を確認してみるがどこもおかしいことはない。夢の中で見た時に想像した、こう、おっぱいができるとか腹がいきなり膨れるとかあるべきものがなくなるとか、そういう恐ろしいことにはなっていないので、
燐は再び息を吐いた。心底安堵した。確かに夢の中でもいわれたように好きな奴との子どもは欲しくないわけではないが、その前にアインス、ツヴァイのドライだけでそれまでのジェンダーをひっくり返されてはたまったものではない。
燐の色々な沽券にも関わる。
「…ったく幸せそうに眠りやがって」
背中を向けている男の顔を覗き込めば、珍しく口を開いてだらしのない寝顔ですやすや眠りこけている。夢なので責めようはないけれどやっぱり忌々しく思うものだ。
ちょっと仕返しに顔に落書きでもしてやろうか、と燐が考え始めた時。
もぞり、と。
ベッドの布団の中で動く何かに気付いた。
はて、このベッドにはもちろん燐とメフィスト以外にはいないはずである。最初はメフィストの足かと思ったが、もぞもぞ、と明らかに何か別固体として動く気配に、燐は不信に思った。
同時に何故か腹の奥がひやっとするような。
いやそんなまさか、あはは。と渇いた笑みを浮かべながらおそるおそる布団をめくったその先には。
赤ん坊がいた。
一瞬目を疑いった。何か幻覚とかそれとも飲みすぎたせいでまだアルコールが抜けていないのか。いやしかしベッドの上に丸まるようにしているそれは、
確かに赤ん坊である。断じて実はクロが入り込んでました的なオチではない。生まれたてを思わせる赤みがありつつも白い肌。
もぞもぞ動く手足に、ぷっくりとした頬をした顔はすでに目が開いていてまっすぐ燐を見つめていて、
「ぎゃあああああ!!」
「…なんですか燐…朝から騒々しいですよ」
燐の絶叫にようやくメフィストが億劫そうに起き上がる。燐は硬直したまま布団の中にいる確かに赤ん坊である生き物を見て、ぱくぱく、金魚のように口を動かしては
赤ん坊とメフィストを交互にみやった。燐の顔は青ざめ引きつってひどい有様である。が、メフィストは燐の絶叫も気にした様子もなく当たり前のように布団の中の
生まれたてほやほやな赤ん坊を実に、それは実に嬉しそうに抱き上げた。悪魔でもそんな慈愛に満ちた顔ができるのだなぶっちゃけメフィストがそんな顔をすると微笑ましいとかいう以前に気持ちが悪い。
と燐は現実逃避的にそんなことを思う。
「おめでとうございます燐!元気な男の子ですよ!」
「いやいやいやいや、ちょっと待て何普通に受け入れてんの!?その赤ん坊はなんだよ!?」
「燐こそ何を言ってるんですか?子ども作りましょうっていってアインス、ツヴァイのドライってしちゃったじゃないですか☆」
夢じゃなかったかあああああ!!
燐は驚愕してメフィストの腕の中に納まった赤ん坊を凝視する。確かに人形でもなんでもなく本物の赤ん坊。まさかどこからか攫ってきて自分をからかっているのだろうか、と
思えればまだ楽だったのだが、現実、腕の中の赤ん坊はなんというかその。確実に燐の血を引いていることを思わせる姿というか。
「なにこれ雪男じゃん!赤ん坊の雪男だ!雪男そのままだ!」
小さな手を動かしてぱちぱち瞬きをしている目は燐の双子の弟雪男の目の色とまったく同じであった。
青みのある緑の目。少し大きな優しげな目の形。白い肌。黒い髪。なんとホクロの位置まで同じである。アルバム中にあった赤ん坊の頃の雪男のままであった。
ということは、ずばり可愛い。
「なにこれなにこれ!すっげええ可愛い、可愛い!小さな雪男だ、可愛い!!」
メフィストの腕からひったくるように奪い取って腕の中に抱けば、高めの体温が腕に伝わってくるようで、きょとん、と大きな目で見上げられれば燐の胸はうずきまくった。
ああその無垢な目の愛おしさよ。なんか色々つっこむべきことはあるのだが、一瞬そんなことは忘れてしまうぐらいの愛らしさである。もう天使だ。発見したときはあまりの事態にびびりまくってしまったが、
わずか1分で何もかもほだされた気がした。今なら血も繋がってなかったのにサタンの息子達だった自分達を育ててくれた養父の気持ちがわかる気がする。
「まあ、子どもが叔父叔母に似るのはよくあることですしねえ…アマイモンに似なかっただけよかったというべきか…。
でもまるで燐と奥村先生の子どもみたいで若干不満ですが」
ぶう、と唇を尖らせるメフィストの前で燐は、赤ん坊を抱きつつその愛らしい顔を見せつけるように目の前に持って行く。
「何言ってんだよおまえ!こんな可愛いんだぞ可愛いんだぞ!不満なんて抱くんじゃねえよ!超かわいい超かわいい!俺、ほんっと生んでよかっ」
はっ!いやいやいやちょっとまて!
ここで燐はようやく我に返る。赤ん坊にデレデレしてしまって初動が遅れたが、我に返った。なんか色々おかしいんですけど、と。
「…俺いつ生んだっけ!?」
まったく覚えがないんですが!?そもそもたった一晩で子どもを生めるわけないじゃないか。燐は実はメフィストしか知らない体なので女性に詳しいわけではないが、
それでも赤ん坊が一晩で生まれるようなトンデモ生き物じゃないことぐらいわかる。確か十ヶ月と十日かかるのではないだろうか。それなのにこの赤ん坊は、
暗転していた間のわずか8時間で誕生だと、ありえない!
「そこは、ほら、私の力でなんとでも☆」
「なんでもそう言えば解決するもんじゃねえだろう!?強引すぎる言い訳だなおい!」
「でもほら、私ですから!いいじゃないですか、こんなに可愛い赤ん坊を授かって!ね、燐も嬉しいでしょう?今日はこの子の誕生日ですよ、ほらそんな不信な顔しないで喜びを分かち合おうじゃないですか!」
う、っと思わず言葉につまった。確かに腕の中の赤ん坊は可愛い。猛烈に可愛い。生んだ覚えも腹に抱えた覚えもとんとなく色んなことをすっとばしての無視してのいきなりの誕生であるが…
たぶんメフィストが言うのだから自分が生んだということになっているのだろうか。覚えはないが、子どもを生んだ母親の感動というのはこういう感じなのだろうか。
それになにより、自分とメフィストの子ども。
「…う、うれしい、かも…」
「そうでしょう、そうでしょう…というわけで燐」
もう一人作っちゃいましょう。
「…は?」
こいつは何を言っているのか。燐はたった今自分が生んだ(らしい)赤ん坊を抱きつつ、口を端を上げている悪魔を見返す。口はふざけたようににやついているが目が本気だ。
10年の付き合いだからわかる。こいつは本気だ。今まさに掴まれた肩が恐ろしいほど力強い。
「いや、一人といわず二人、三人…十人ぐらい欲しいですね!」
「ちょっと待て待て待て!何勝手なこと言って!」
どしん、と押し倒される。ご丁寧に赤ん坊はきちんと横に置いて。待ってくれ。赤ん坊の目の前でおっぱじめるつもりか。その前に10人ってなんだ。
この1人でさえどう生まれたのか覚えていないというのにいきなり10人とかってなんだ。
「ちょっと待て落ち着けよ!」
「私は落ち着いてますよ。私の夢はね、サッカーチームができるほど燐との子どもを儲けることです」
「なにその使い古されたベタな夢!い、いやああほんとにちょっと落ち着けよおおそこに俺の意見はねえのかよおおお!」
「何いってんですか嬉しいくせに!」
「いや、もう嬉しいとかそんなことじゃ…!」
「いいじゃないですか、今度も恐怖も感じさせないほどあっという間に終わらせてみせますから☆では1日1人ずつとして10日間がんばりましょうね!
レッツ子作り☆」
アインス、ツヴァイ、ドライ!
「ぎゃああああああ!!!!」
今度こそ本当に起きた。
チュチュンというスズメの鳴き声に起こされたことをこれほど感謝したことがあっただろうか。今度こそ本当に起きた。汗もかきまくっている。
当然のようにメフィストの寝室のベッドの上で真っ裸である。今まで見ていたものが頭を巡った途端、素早く布団の中を確認してもそこに赤ん坊はおらず。
当然だ。なんておかしい夢を見ていたのか。一晩だけで雪男そっくりの子どもが生まれててさらに10人生まされそうになったなんて。そこまでいくと最早悪夢である。
「あー夢でよかった!」
「…何が夢でよかったんですか?」
燐の絶叫のせいか耳を少しぴくぴく動かしてからやっぱり真っ裸なメフィストが億劫そうに起き上がった。そのメフィストもまさか赤ん坊を抱えているわけではなかったので、
燐はもう一度安堵する。
「なんかすごい叫んでましたよね?そんな酷い夢を?」
ぼりぼり、と頭を掻いて常に眠そうな目をどろんとさせているメフィストに燐は、いやあ実はさあ、と夢から解放された安堵からそのとんでもない夢の内容を話してしまった。
うっかりと。ここで燐が少しでも冷静であったならば話を進めていく度に眠そうなメフィストの目は見開き、爛々と輝きだしたことに気付いていたかもしれないが、
如何せん、燐はテンぱっていた。気付いていなかった。そして、終いには目の前の悪魔が舌なめずりをしたことも。
「いやあ、ほんとに馬鹿な夢だよなあ。一晩でおまえの子ども生むってさあ。俺もおまえの男なのに、いくら悪魔だからって」
「…燐」
あれ?気がつけば天井を仰いでいた。すぐさまそこにメフィストが伸し掛かってくる。なにこれ夢と同じ状況じゃないか。
そして覆いかぶさってくるメフィストの顔は実に憎たらしいほど悪魔めいた笑みを浮かべている。ぞくり、と背筋に走るなにかは決して快感ではあるまい。
いやほんのちょっとそれもあるかもしれないが、今燐の中に駆け巡ったのは本能的な危機感である。
「あ、あのちょっとメフィストさん?」
「燐、うれしいです。まさかあなたがそんな夢を見てくれるなんて。夢は深層心理での欲望ともいいますものね。正直、あなたに今の夢の話をされるまで私も考えたことがなかった…
あなたと私の子どもを作るなんて!」
なんて素晴らしい未来図!今まで考えなかったのがおかしいぐらいだ!
と感極まったのか燐を抱きしめてくるメフィストがうっかり愛しいなんて思ってしまうが、そういう問題ではない。
待ってくれおかしいのは確かにおまえだが、そういうことを考えつくことがおかしいのだ。
「ちょ、ちょっと待てよ!俺はただ夢の話をしただけで!」
「素晴らしいじゃないですか!私と燐の子どもなんて!よし、作りましょう、さっそく子どもを作りましょう!」
「だから待てってえええええあれは夢の話なんだよおおお本当にアインス、ツヴァイ、ドライで男なのに子供ができるわけ」
「やってみないとわかりませんよ、もしかしたらできるかもしれないじゃないですか、なんせ私ですし☆」
必死に自分に迫る悪魔を押し返そうとするが夢とまったく同じでびくともしない。悪魔の欲望丸出しの恐ろしいぐらい嬉々とした顔をしてはいるが、
その目は慈愛に満ちている。あれこれなんて再現。夢の中で赤ん坊を抱いていたメフィストのようだ。その顔に一瞬抵抗をやめてしまった燐にメフィストは素早く口付けた。
いつもベッドの上でしているみたいな濃厚なものではなくて、軽く触れるような。そんな初々しいキスも久しぶりなような気がして、何にもないはずの腹がきゅんとうずくのは何故なのか。
「私の夢、たった今決まりましたよ。私の夢はね、サッカーチームができるほど燐との子どもを儲けることです」
「…なにそのベタすぎる使い古された夢」
「まあまあ、いいじゃないですか…燐も本当は欲しいくせに」
「……」
夢と同じように転がっていく展開に燐は何故か反論もできなかった。なんだかんだで自分に触れ始めた手が嫌じゃない。あれどうした自分、夢の中ではあんなに動揺していたというのに。
現実では本当にメフィストの子ども生む(?)のも悪くないんじゃないかって思ってる。
「さあ、燐、がんばりましょうね。夢みたいに一晩でぽんってわけにはさすがにいかないかもしれませんけど、試してみる価値は充分ありますよ」
いそいそと自分の体に手を這わせる姑息で狡猾な悪魔にため息をつきつつ、その首に腕を回す。
「やれるもんならやってみろよ」
半ばヤケクソになってにやりと、メフィストに負けないよう悪魔っぽい笑みを浮かべてみても、メフィストから見ればかわいい挑発を贈ってくるかわいい相手に他ならない。
今一度、舌なめずりをしながら、
「では、」
アインス、ツヴァイ、ドライ!
と唱えてから軽快に指を鳴らした。
その瞬間、もし本当に子どもができてしまったら意地でも雪男に瓜二つの子を産んでやろう、と燐がよくわからない決断をしていたのは余談である。
2012.9.2
某方のお誕生日用メフィ燐でした!