おうおう、メフィスト、久しぶりだな。貴様が虚無界に寄り付かなくなってからさっぱりだったからな。覚えていたか、長兄の
顔。俺は貴様の顔なんぞ、すっかり忘れていたけどな。いや、冗談だよメフィスト、貴様のその生意気な顔は忘れようにも忘れられないさ。
ははは、しかし、今はそんな「昔」の顔さえしてられないようだな、ん?何をそんなに
驚いている?どうやってこの学園に入ったのかと?おいおい、メフィスト、弟よ。内側から「悪魔」の協力を自らしてくれる「人間」など山ほどいるぞ。
まさか俺がどういう「悪魔」か忘れたわけではあるまいな?俺が一言、二言、吹き込むだけで奴ら、簡単に人形になってくれるものさ。ああ、アマイモン、あれは
関係ないけどな、俺のこれからすることを話しても、相変わらずのあの無表情で、はい僕は何もしませんし見ませんし聞きません、と頷いて大人しくしてくれただけだぞ。だからあとになっても、そう
あれを責めてやるなよ。貴様だってわかっているだろう、始めから決められたその力より上の「悪魔」に逆らうなんぞ、
「悪魔」は考え付きもしないことさ。しかも、長兄の俺にだよ。と、いうことだと、メフィストよ。まさか貴様、この俺に逆らうつもりは、ないよな?
ああ、何故俺がここに来たかと。何、あの父上がそうしろと言ったからだよ、それ以外に、何がある。おいおい、メフィスト、何をそんなに驚いている?
父上は申し出を受けたはずだ、と。あははは、嗤えるなあ、メフィストよ。父上が、どれだけ気まぐれで、どれだけ、あの虚無界を自ら創造していられるか、忘れたわけでは
あるまいな?そういうことだ、メフィストよ。俺はただ、父上の言う通りにするまでだ。さて、ということはだ、メフィストよ。
我らの小さな末の弟は、どこにいる?
そいつを出してもらおうか。
なあに、そのまま実家に連れて行くだけだが?それがどうして、貴様にとって都合の悪い?
おいおい、メフィスト。
貴様、正気か?何故、兄である俺に逆らう。おいおいおい、貴様の力なんぞで俺の膝さえ折れないことぐらい、貴様、わかっているはずだろう。そういう「力」に
ついては兄弟の中でもおまえが一番よくわかっていると思ったがな。貴様、少し虚無界を離れすぎてたのではないか?物質界の空気に犯されて、頭がおかしくなったのか?
いやいや、もともと悪魔に頭の正気もおかしいもないがな、ははは。まさか貴様のその面が崩れる日がくるなど、思ってもみなかったよ、兄上は。いやいや、
なかなかにそういう面もいいぞ、メフィストよ。地面を這いつくばってか、牙をむけてか、くやしそうに目を歪ませてか。貴様、そうまでになって何故、今だ、
末の弟を出さない?どこに隠したのだ、メフィストよ。言ってしまえば、末の弟を俺に差し出してしまえば、それでいいのだぞ。簡単だろう。そもそも、
何故、貴様そんなにも抵抗するというのだ、しかも兄上の俺に?絶対的に逆らえない力の差のあるものに?父上の望まれている末の弟を隠して?くくくく、
メフィスト、やはりそうか、貴様---------いやいや、最初から俺はわかっていたがな。父上だって当にわかっておられたさ。貴様が真のところ何を望み、
何を企んでいたかということぐらいな。傑作だな、メフィストよ。まあ、貴様もあの父上を騙しきることができるなんぞ、思ってはいなかったかもしれないがな。
貴様が何より考えていなかったことは、こうも時が早いということだけか。正直、俺もそう思うがな。あの父上が、早くつれて来い、というのだ。理由は知らぬ。
父上がそう言う。それが全てではないか。そして、それを仰せつかった俺が、末の弟を出せ、という。貴様にとってもそれが全てのはずではないか。
何に、何故、そうも血みどろになりながら俺に牙を向けるのだ?ああ、貴様は本当に昔からよくわからぬ奴だったな。兄弟の中でも貴様は、かなり異質であったな。
父上もそうだが、何故、そうも物質界などに執着する。いや、父上のそれと貴様のそれは違うな。貴様のそれは、物質界に己が在ることを望むものだ。
昔から貴様は真に…虚無界にはついに居場所を見出せなかったな。むしろ、居場所を求めることさえ、「悪魔」にとっては異質だが。貴様はそれを
物質界で見つけたわけか。くくく、嗤えるなあ、メフィストよ。滑稽なことだな、メフィストよ。貴様は結局、そういうことだ。
己の生きていられる場所を、獲られたくない。ただそれだけの、いや、それこそ快楽を求める悪魔故の必死さなのだよ。つまり貴様は、昔から異質な奴ではあったが、
正しく、悪魔だ。兄上は安心したぞ。いや、真にだ。だから、父上が物質界を手に入れることのどこが、おまえにとって都合の悪い?
なに、兄上にはおわかりにならないだろう、と?
まあ、確かにそうだな。正直、俺には虚無界も物質界もどうでもいいのだ。どちらの次元が
どのような結末をたどろうと、どうでもいいことなのだよ、俺にとってはな。俺の快楽は次元そのものにあるのではないからな、貴様と
違って。だから、俺は父上が望まれたとおりにするまでだよ。だからなあ、メフィストよ、さっさと末の弟の場所を吐いてはくれないか?何故、そうも
末の弟を隠すのだ?あれが父上の手に渡るのが、そうか、貴様にとっては絶望か?物質界を獲られるから、絶望か?ならば、末の弟は貴様にとっての希望なのか?
それこそ喜劇だメフィストよ。いいか、希望というのはな、泥で作られた人の女がパンドラの箱を開けてしまったときから、実は悪魔達と共に逃げてしまっている、とは思わないか?
なに、兄上が神話を語られることこそが滑稽だ、と?おいおい、メフィストよ、まだ仕置きがたりんか?もう両の足を折っているのだぞ。今度は腕を折ってやろうか?
それともその生意気な顔面を潰してやろうか?は、は、は、ははは。滑稽なことだな。
全てが全て、どうしようもなく愚かで、滑稽で、喜劇以外のナニモノでもないというのに、我々はその内の中で踊っている。俺はそれをわかっている。だから俺にとっては
、虚無界も物質界もどうでもいいのだ。
あの末の弟が、希望か絶望か、それさえ俺にとってはどうてもいいのだが。
やはり、貴様にとってあの弟は希望なのか?
父上の炎を継いだ、あの弟が、か?
それとも貴様、まさか、情というものでも、移ったか?
…兄上にはおわかりにはならないだろう…?
貴様、その台詞もう二回目なのだがな。とうとう頭が飛んだか?あまり兄上を怒らせるものではないぞ、いい加減、末の弟の居場所を吐け。いいのか、メフィスト、
このまま貴様を殺すぞ?そうなれば物質界に居場所のあるもないも、なくなるぞ。貴様、今、ここで悪魔の本能に従ってしまえばいいまでではないか。差のあるものに、
虚無界にて父上から与えられた力の差をもって、決してそれには逆らえぬ-----我々はそういう者達なのだから。…なんだ、その目つきは、メフィストよ?言いたいことが
あるなら言わぬか。最期の遺言に聞いてやろうか?言え、末の弟の居場所を吐いて、そうして、楽になってしまえ、メフィスト----------
「…………絶対に、渡さない」
………
おいおい、メフィスト……メフィスト・フェレス…貴様の今の目、まるで、人間のようではないか。
ははははは、これは滑稽だ、紛うことなく悲喜劇だ。久々だなあ、ここまで腹が膨れたのは。
………そうだな、メフィスト、そういえば、言ったことはなかったな、この俺の快楽を。
俺はこのとおり、世界のくだらない滑稽な、愚かなものを喰うのだよ。
あの末の弟が、希望か絶望か、そんなことはどうでもいいのだ。
アレがどんな愚かな世界を生んでくれるのか--------俺にとって大事なのは、ただそれだけなのだから。
2011.7.12