学校のない土曜日。俺はいつも朝寝坊をしてしまうので、弁当は起きてから作って、その後に父さんの仕事場にまで持って行く。
これが俺の学校のない土曜日の習慣。そんなめんどうなことしないで、朝早く起きて作ってしまえばいいのに、と母さんはいつも困ったように笑って言うけど、
せっかく学校がないのに朝早く起きるほうが俺にとってはめんどうなことだったし、何より、これは父さんの仕事場に行くための口実でもあった。誰にも言ってないけれど、
父さんだけはたぶん、知っている。
弁当のおかずは父さんの好きな魚中心。それに母さんの育てたハーブのサラダもつめて。弁当は俺と父さんの二人分。未だにスキヤキ以外の料理は苦手な母さんのために、別の皿に同じ料理を盛り付けておく。
学校のない土曜日のお昼だけ、母さんはひとりでご飯を食べることになってしまうけど…あ、ひとりじゃなかった、クロもいる。あと母さんの使い魔の「ニーちゃん」も。
クロは俺がうっかりクロの分のご飯を忘れそうになっていたのを察したのか、足元で「ごはん!」と叫んでうるさい。俺は、ごめんごめん、と言いながらクロの皿にもおかずを入れておく。
俺が、猫のクロの言葉がわかることは、クロと、父さんと母さんだけの秘密だった。そしてご飯の準備が終わったら、
母さんはいつも優しく微笑んで俺に、いってらっしゃい、とお茶の入った水筒を二つ渡してくれる。
俺は、いってきます、と言って二人分の弁当と水筒を持ってお昼を待っている父さんの仕事場まで行くんだ。
父さんは家から少し離れた街の中にある病院でお医者さんをしている。その病院は父さんの開業したもの。
俺が生まれた頃には、小さな病院だったらしいけど、今ではだいぶ大きくなっていて、でもご近所さんも気兼ねなく通えるような親しみのある病院だった。
俺はそこへ行くのが好きだ。俺は昔から体はすごく丈夫だから、予防注射以外で病院にお世話になったことないけど、それでも俺は父さんの病院が好きだった。
父さんの病院は消毒の匂いがあんまりしない。代わりに母さんの育てた花やハーブのいい香がする。母さんの花の香がする白い廊下を歩いて行く。
途中であった看護師さんたちは「あら、燐くん、先生なら今診察室よ」と教えてくれる。俺が学校のない土曜日だけ弁当を届けるためにここへ来ることは、すでに病院のみんなにとっても習慣になっていた。
教えてくれた看護師さんに、ありがとう、といって父さんのいる診察室へ向かう。
「父さん」
診察室の、白いカーテンの向こう。そこのデスクに座ってカルテに何か書き込みながら、父さんは俺を待っていた。
「ああ…燐、今日も12時ぴったりだね」
白衣を着ている父さんは、にこり、とメガネの向こうの青い目を細める。カルテからは目を離して俺を見てくれる。恥ずかしいから言わないけど、父さんが仕事を忘れて俺を見てくれる、その瞬間が俺はとても好きだ。
「今日はなに?」
「かじきのカツレツと出汁蒔き卵。母さんの育てたルッコラとベビーリーフに紫たまねぎ混ぜたサラダ。ドレッシングはブラックオリーブ入ってるよ。デザートはオレンジゼリー。
ご飯とパン、両方持ってきたけど、どっちがいい?」
「燐は?」
「俺はどっちでもいいから、父さん選んで」
「じゃあ、ご飯で」
父さんにはご飯の入ったほうの弁当箱を渡して、俺はパンの添えてある弁当箱を取る。ここじゃ食べれないから別の場所でね、と言って父さんは看護師さんたちにお昼とって来ることだけ告げる。そして俺達は病院の小さな中庭にある
小さなテーブルとイスのある場所まで移動して、そこでご飯を食べる。天気のいい日はいつもここだ。今はもうすぐ夏休みが始まろうとしている時期なので、ちょっと暑いぐらいなんだけど、
病院の中庭は風がうまいこと通り抜けていくのでずっと涼しかった。父さんの真っ白な白衣が、初夏の光に照らされてちょっと眩しかった。
いただきます、と二人で手を合わせて弁当を食べる。我ながらまたおいしく作れたなあ、と俺は思った。父さんもカジキマグロのカツレツも卵焼きもハーブのサラダもゼリーも全部、おいしいよ、と言って残さず食べてくれた。
これが俺の学校のない土曜日の習慣。本当ならお昼を一緒に食べたら俺は家に戻ることがほとんどだけど、今日はまだここにいたかったので、父さんにそうお願いする。
「いいけど…帰ったらちゃんとその分、勉強するんだよ」
俺は、えー!っと叫ぶけど、父さんは、ダメダメ、と父さんモード。
「今年で中学最後の夏休みになるんだから、受験勉強しなきゃでしょ?」
痛いところをついてくる。俺は、今だ伸びないテストの点数を思い浮かべて、ため息。確かに今年は夏も冬もがんばらないと、あの学校には行けないというか…もともと
俺にいける可能性なんて限りなくゼロに近いけど…俺、父さんと全然違って、バカだもの。
でも父さんは、むす、っと拗ねてしまった俺の頭をくしゃくしゃ撫でて、終わったら勉強見てあげるから、と言ってくれたので、やっぱり帰ったら勉強ちょっとかんばろうと思った。
今日は患者さんはあんまりこない日だったみたいで、父さんは診察室でずっとカルテに何か書き込んで、そしてノートパソコンを時々いじっていた。
かりかり、とボールペンを走らせる音。かちかち。キーボードを叩く音。それを奏でる父さんの指。太くて逞しくて、ぱっと見た感じお医者さんの手には見えないほどなのには、
ちゃんと理由があった。父さんはお医者さん以外にも仕事がある。最近はずっと「講師」の仕事ばかりみたいだけど。
俺に背を向けてデスクに向かって仕事をする父さん。俺はその背中を見ているのがとても好きだ。広くて頼りがいのある父さんの背中。親だから当たり前だけど、
ずっと前を歩いてきた父さんの背中。そして、そうしてデスクで仕事している父さんは本当にお医者さんなんだなあ、と思うと、俺はいつもうれしくなる。
なんでかわかんないけど「父さんがお医者さん」ということが、俺は時々、うれしくて仕方ない。
「それで、燐、何があったの?」
背中を向けたまま父さんはそう言った。俺は、びくり、と思わず肩を跳ねさせてしまった。なんでわかったんだろう。
「燐は何かあったときは、必ずお昼終わった後もここにいたがるからね」
こっち向いてないけど、父さんが笑っているのがわかった。俺は、なんだばれてたか、ちぇ、っと唇と尖らせるも、そもそも聞いて欲しくてここに残っているので、
ちょっと迷った後、やっぱり話すことにした。
「…昨日さ、勝呂おじさん来たんだ」
「勝呂くんが?」
父さんは、ノートパソコンから顔を離して、診察室の薄っぺらいベッドに腰掛けている俺にメガネを向ける。
「ほら、父さん、昨日は「任務」でそのまま泊り込みで病院で仕事じゃん。勝呂おじさんは昨日来たんだよ。志摩さんと子猫丸さんも一緒。2日早いけど、ほら…
「叔父さん」のお墓参り」
ああ、と父さんはメガネをかけなおす。その奥の目はいつもみたいに穏やかだった。
「今年もわざわざ京都から」
「うん、でも命日には仕事の都合でどうしても行けないから、早めに来たって」
勝呂おじさんは、京都で「明陀」という宗派の一番えらい人の役目を果たしながら「祓魔師」の仕事もしている、渋くてかっこいいおじさんだ。おじさんって言っても
全然怒らないし(でも、俺はまだ若い!と拳で頭ぐりぐりはしてくるけど、ふざけてるだけ)、とてもかっこいい人なので俺はいつも会える時が楽しみだった。
でもその会えるときというのが、大体は、「叔父さん」の命日になるから、手放しに喜んだりはしない。いつも志摩さん(志摩さんはおじさんというと、お兄さんっていいなはれ!って言ったので、とりあえずおじさん呼びはやめておいた)と子猫丸さん(あの人は童顔だから今一おじさんって感じじゃない)
と一緒に来てくれる。
「三人とも父さんに「よろしく言っておいてくれ」って」
「そっか」
父さんは優しく目を細くする。特に「叔父さん」の命日が近づくと、父さんはこういう表情が多くなる。俺を見ながら、いつも。もっと小さい頃はそれがなんでかわかんなかったけど、
ある程度大きくなってからそれがなんでかわかった。俺が「叔父さん」にとてもよく似ているからだと思う。
「叔父さん」とは文字通り、俺の「叔父」に当たる人のことで、父さんの双子のお兄さんのことだ。夏が始まる前に、その年の12月には二十歳になるはずだったその前に、亡くなってしまったらしい。
その人の命日が2日後だった。この時期になると、叔父さんと父さんの昔の友達だったっていう人達が必ずやってきては、叔父さんのお墓参りをしていってくれる。
命日にどうしても来れない人は早めに来たり、命日から何日か後にもなったりするけど、それでもみんな毎年必ず来ていた。そしてお墓参りが終わったら、何故かみんながみんなどこか泣きそうな顔をしながら、
俺の頭を撫でて「大きくなったね」って言う。俺は今年で15歳なので頭撫でられるなんて恥かしいけど、それはひとつの儀式みたいになっていたので、毎年、俺は頭撫でられることには何も言わないことにしている。
もちろん、勝呂おじさんにも頭撫でられて、「もう今年で15か、早いなあ」と悲しそうなでもうれしそうな顔で言われた。
「勝呂くんと何かあった?」
鋭い父さんにちょっと言葉がつまる。俺は、膝の上の拳を、もじもじ、させた。
「…『祓魔師になるんだ』って言ったら反対された……」
頭を撫でられた後、叔父さんのお墓の前で俺は勝呂おじさんにそう言っていた。勝呂おじさんに言ったのは初めてだったので、おじさんはびっくりしていたけど、数秒後にはちょっと怒ったように眉を寄せて、
「『あかん』って言われた」
「…そう」
「勝呂おじさんは賛成してくれるって思ってたから、ちょっとショックだった」
「……」
こういう時、黙って聞いてくれる父さんが俺は大好きだ。
「『俺は昔、親父から祓魔師になることを反対されたことがあるから、反対されるおまえの気持ちもよっくわかるがな、大人になった今からやとあの時の親父の気持ちもわかる。だから
矛盾しとるかもしれんけど、俺はおまえの親でもないけど…それでも、おまえまで祓魔師になることは賛成できへん』」
わざと京都弁っぽく言ってみるけど、余計に悲しくなった。
「なんで!?って聞いても、あんまりはっきりしてなかったけど『悪魔の親玉がいなくなったおかげで、ここ20年で悪魔の数も確実に減ってきとるし…祓魔師のできることはそのうち無くなると思うから』って。
答えになってないよね。確かに祓魔師ってさあ、悪魔を祓うことが主な仕事らしいけど、それ以外にも、色々あるじゃん」
例えば、昔から父さんやその友達の祓魔師の人達から聞いてきた話では、奉られていた神様が堕ち神になって暴れないように監視したり、悪魔の数は減っても人が悩んで苦しめばその心には悪魔が棲みつくからそれを祓ったりだって、
未だにしている。俺が思うに、勝呂おじさんは「仕事がなくなるから」って理由で俺に反対したんじゃないと思う。じゃあなんの理由かっていわれれば…俺はたぶんもうわかっている。
「ねえ、父さん…勝呂おじさんも母さんも…昔の父さんの友達がみんな、俺が祓魔師になること反対するのって、俺が「叔父さん」に似てるから?」
俺と叔父さんはとてもよく似ている。
最初にそれを聞いたのは、俺が6歳のとき。父さんの書斎に勝手に入って見つけてきた昔の写真がはじまりだった。そのときは、あんまりよくわかんなかったけど、今から見れば俺は「叔父さん」によく似ている。
青みがかかった黒髪も、目つきがちょっと鋭いところや、目の色が青だってことも。叔父さんが15歳の時の写真なんて見れば、似てないところを探すほうが難しかった。あ、でも、俺は叔父さんと違って、耳も歯も尖ってないけど、
それ以外は全部そっくりだ。二十歳になる前に、当然、俺が生まれる前に亡くなってしまった人だから、その性格がどんなのだったかは実感できないけど、みんながいうに、俺と叔父さんは性格もよく似ているらしい。
おバカなとことか(失礼だ)、まっすぐでやさしくてでも危なっかしいとこが、似ているらしい。
その人は、二十歳になるまえに、夏が始まる少し前に、亡くなった。…亡くなったというか、真っ暗な場所に堕ちていってしまって、もう二度と、会えなくなったんだって、父さんは言う。
俺は6歳のとき、写真を見つけたのをきっかけに、父さんや母さんに叔父さんのことを聞くことが多くなり、また叔父さんの話を聞くのが大好きだった。父さんはいつも
「兄さんは、おバカさんで、ちゃんと見てないとすぐどっか行っちゃって世話を焼かせる人でね。でも、強くて純粋で、とても優しい人だった。そして、本当の意味で人を守れる「人」で、
父さんも母さんも、その友達もみんな兄さんに守られたんだ」って叔父さんのことを語る。その時の、父さんの顔はいつも穏やかででも少し寂しそうで、それでも、幸せそうで。そういう顔で、6歳の俺を抱っこしながら、
空を見上げながら父さんは語っていた。6歳のときに初めてその話を聞いたことを、俺はよく覚えていた。その時、俺が叔父さんみたいに強くなって父さんを母さんを守れるようになるって決めたことも。
それは、今でも、変わってない。15歳になろうとしている今でも、不思議と揺らぐことは一度もなかった。
俺は、叔父さんによく似ている。
二十歳になる前に、真っ暗な場所に堕ちて、いなくなってしまった人に。
「…でも俺は、「叔父さん」じゃないよ」
俺は、名前も叔父さんから貰っている。叔父さんと同じ「燐」という名前。つけたのは父さんだった。俺は別にそれを一度もいやだなんて思ったことはない。
むしろ、父さんの大好きだった「兄さん」の名前をもらえてうれしかった。叔父さんと似ていることもいやじゃない。話でしか聞いたことのない存在だけど、
叔父さんに憧れている。父さんにも憧れているけど、また別の意味でも叔父さんに憧れているし、父さん達を守ってくれたその人に、感謝している。だけど。
「…わかってるよ、燐。みんな、そんなことぐらい、わかってる」
俯いてしまった俺の横に父さんは座った。二人分の体重に薄いベッドが、ぎしり、と鳴った。
「…俺は二十歳になる前にいなくなったりしないよ」
「うん」
父さんは俺の肩に腕を回して、そっとその逞しい体に寄せてくれた。
「でもみんな…言わないけど、目を見ればわかるよ。俺が叔父さんみたいにいなくなるかもしれないのが、きっと怖いんだ。母さんも勝呂おじさんも…」
きっと、父さんも。
俺の肩を抱く父さんの腕の力が、少しだけ強くなる。
父さんも言わないけど、いつも優しく笑って隠すけど、このことを一番怖がっているのは父さんだと思う。それでも、父さんは、父さんだけは、俺が「祓魔師になる」ということに一度も反対したことはなかった。
「俺は、誰も置いていったりしない。ずっとずっと側にいる。側にいて父さんや母さん…大事な人達を守りたい。だから祓魔師になりたいんだ」
医者をしながら祓魔師をしている父さんも、その武器を扱うために堅くなった手で、俺と母さんをそして他の人達をたくさん守ってきた。
「…燐」
透き通った声で父さんは俺の名前を呼ぶ。顔をあげれば、堅い皮膚の指で目元を撫でられた。ちょっとだけ泣いたの、やっぱりバレたらしい。
「僕はね、おまえがおまえの意思で「祓魔師」になりたいって言っているって、わかってる。だから、反対なんてしない。だってそれは「燐」が選んだ道だ。
「燐」だけの世界だよ。兄さんの世界とは全然、違う。だから僕は…むしろおまえの将来が楽しみだ」
ウソだ。
にこりと笑う父さんの言葉。もちろん、その言葉も本当だろうけど、でも、一番、怖いなって思ってるのは父さんだ。だって父さんは「兄さん」が大好きだった、いや今でも「大好き」だから。
叔父さんのお墓は、父さんと叔父さんが15歳まで育ったという修道院の庭の中にある。古い修道院でちょっとぼろいけど、「じいちゃん」のことを慕っていた修道院の人達がずっとそこで働いていて、
父さんもお金をそこに寄付している。
俺はたまの日曜日にそこへよく遊びに行く。特に何かお祈りとかしていくわけじゃないけど、小さい頃からそうしていた。
小さな教会。そこにいると俺は何故かとても懐かしい気持ちになってきて、会ったこともない「じいちゃん」がそこにいて笑っているような気がするんだ。
父さんと叔父さんの「父さん」…正確には「養父」だったそうだけど、
父さんはその「養父」さんのことを本当のお父さんみたいに思ってるから、俺はその「養父」さんを俺の「じいちゃん」だって思ってる。
じいちゃんのお墓の横に叔父さんのお墓。元は真っ白で綺麗なお墓だったんだろけど、長い年月で少し黒くなっている。毎年、俺と父さんと母さんは、黒い服を着て、
お墓参りをする。夏が始まる少し前の季節。いつも白い花を添える。その時の母さんは、いつも泣きそうな顔をして、俺の手を握ってくる。
俺はもう15歳だし背だって母さんより高くなったから、母さんと手を握ることなんてほとんどないし、恥ずかしいんだけど、でもこの日だけは、いつもそうしている。
お墓には「Rin Okumura」と彫ってある。俺と同じ名前。でもそこにいるのは父さんと母さんが大好きな「奥村燐」さんだ。毎年、昔の「仲間」がやってきてお墓参りをしてくれる。
それだけで、叔父さんがどれだけすごい人なのか、どれだけみんなに慕われていたのか、よくわかる。
お花を添えたら、毎年、その後、父さんは独りでどこかへ行く。どこへ行くかは俺は未だに知らないけど、母さんは止めないし、俺もそっとしておいてあげたほうがいいって
わかってるから、何も言わないし、聞かない。だから、知らないんだけど、でも、たぶん、父さんはこの日だけ「兄さん」との思い出の場所とかを辿っているんだと思う。
予想でしかないけど。
俺の頭を軽く撫でてから、背中を見せて、「兄さん」との思い出を辿ろうとする父さん。俺は、その時、むしょうに父さんに言いたいことがあった。だから叫んだ。
「父さん!」
父さんは、目を見開いて俺を振り返った。
「俺はずっとずっと側にいるから!」
お墓に響きたる俺の声。父さんはしばらく驚いたように俺を見ていたけど、やがて、微笑んだ。寂しそうな泣き出しそうな顔だった。でもそれが、
毎年のこの日、父さんの本当の「心の顔」なんだろう。
俺が6歳の時、初めて父さんは「兄さん」のことを語ってくれた。
大好きだった。ずっと笑っていて欲しかった。ずっと一緒にいたかった。と父さんは言っていた。でも今は俺がいるから、あまり悲しくないかもしれないね、とも言っていた。
俺は、叔父さんにすごく似ているし、叔父さんがそうだったように祓魔師になりたいって思ってる。だから春になったら
塾に通いたい。正十字学園は…俺の頭で受かるかわかんないけど、でもがんばってみようと思う。
でも俺はもちろん、叔父さんじゃない。だから、本当に意味で父さんの「兄さん」の代わりになれるなんて、なろうなんて思ってもいないけど、それでも、
せめて俺だけでも、父さんの側でずっと笑っていたいんだ。だって俺がずっと父さんに笑っていて欲しいから。
2011.7.20
このお話についての妄想設定はこんな感じです