陽だまりの中で青に包み聖女の中にて夢を見る

 

雪が溶ける頃になった。
真白いだけだった地面から青いものが生えてくるようになり、あっという間に地面を覆った。冬とは比べ物にならないぐらいの色が溢れた。緑に黄色に赤に青。そして様々な生命が息吹だし、活動し始めた。 あれはなんだ?と俺が地面を指して問う度にユリはひとつひとつ答えてくれた。あれはなんだユリ?あれはお花よ。花?そうよあれはタンポポね、もう春も近いわ。ならばアレはなんだユリ?あれはつくしとふきのとう、甘く煮詰めるとおいしいの。 ユリは俺の問いに全て答えてくれた。ユリは何でも知っているな。と俺が感心すれば、私なんてまだまだ知らないことばっかり。とユリは苦笑した。
おまえの足で走ってみたいと願えば、ユリは青い草の茂る地面を走ってくれた。足の裏にあたる感覚がくすぐったいと思った。太陽の光はますますやわらかくなり、ユリの肌で感じる世界は暖かさに包まれるようになった。 冬の間にはあまり見かけなかった生き物も現れるようになった。小鳥に森の獣達。ユリには何故か悪魔も懐いていたが、そういった動物達も懐いていたように思う。ユリは全てを分け隔てなくやさしくしていた。そのユリのやさしい眼差しを、 何かに触れる手を、俺だけに向けて欲しい、と俺が言えばユリは困ったように微笑んだ。
そうした春の訪れを感じ始めた頃、ユリは命について俺に教えてくれた。小鳥の死骸を手にとりながら。ユリは命について語った。死とはなんだ?命とはなんだ?俺の疑問にユリは答えてくれた。命はこの世界に溢れひとつとして同じものはないのだそうだ。 そしてそういった命のひとつひとつはとても大事だ大切でこの世界の中で生きて、死に、この世界を回していく素晴らしいものなのだ、と。 虚無界には、俺達悪魔にはそういった概念はなく、俺自身でさえ俺は一体いつから存在しているものなのかも知れない。あちらでは皆、実態などなくて澱んだ空気のような存在なのだ。だから俺はユリの話を聞くうちに、 命、といったものがひどく羨ましくなった。体があり、形があり、全身で物質界の全てを感じられて、悪魔のように長い時はないけれど、その刹那の命の中で煌いて、はかなく散る。 俺には想像もできない、話であった。俺にもし、その命があれば、例えば、ユリに本当の意味で触れることもできるのだろうか。退屈など覚えなかっただろうか。 生きているという時間が、素晴らしいものに感じていただろうか。
俺も命が欲しい。
そう願えばユリは、
命は買ったり与えたりできない、でも…育むことはできる。
青く綺麗な緑の目で強くそう言った。
ならば俺とその命を育んでくれ。
俺がそう願えば、ユリはしばらく黙り込んでいたが、やがて白い頬を少し赤く染めて、うん、と頷いた。
俺は青い炎をわずかに出して、ユリの黒く癖のある髪を撫でた。ユリはやわらかく目を閉じた。俺に体がないことが本当に残念だと思う。ユリに触れたかった。その黒い髪に触れて白い肌に触れて、 そして。しかしそれはできないので、青い炎でユリの肌をなめる。ユリはくすぐったそうに身を捩って、草原の中に横たわった。命はどこにできる?と俺が問えば、ユリは、ここよ。と 下腹部に手を置いた。そうかここか。うん、ここよ、女にだけ備わっているの。そうか素晴らしいな。そう?首をかしげるユリの唇に炎を這わす。あたたかい、とユリは呟いた。 次はユリの首に、腕に、胸に、そしてその下腹部へ。下腹部に炎が這った途端、ユリは、あたたかい、とまた呟いたがどうしてだろうか、その時は泣きそうな声であった。 悲しいかユリ?と問えば、いいえ。と答えた。たぶん、うれしいの。とユリは泣いた。大きな青く緑の目から、透明な液を流した。それはなんだ?と問えば、涙よ。と言った。 悲しいときに流れるものだけど、でもうれしいときにも流れるの。ユリは今うれしいか?ええ、うれしい。そうかユリがうれしいなら俺もそうだ。俺達はそれ以上言葉を交わさなかった。 ユリの下腹部に俺は俺の炎を注いでいた。本当ならばユリに触れたかった。触れて抱きしめてその黒い髪に触れて白い肌に触れて、そして-------。
俺のどこかから溢れてくる奇妙なものの名前がわからない。ユリに問えば、ユリは少し考えたあと、あなたが好きよ、と言った。透き通った真っ直ぐな言葉で、何故か、俺は胸が締め付けられるようだった。けれど借りているユリの体は正常である。 けれど苦しいのかもしれない。あなたがすきよ。もう一度ユリは言った。そうか、ならば俺もきっとそうだ。と言えばユリは微笑んだ。その笑みが、うれしくて、俺は青い炎でユリを抱いた。







2011.9.23