秋という季節は紅一色に森を染めた。
それらは赤いやら橙やらで見ていて飽きなかった。風が吹いていないのにはらはら葉が落ちてきて、時折、ユリの黒い髪にも落ちてきた。
森の動物達は冬に備えてせっせと食い物をあさっている。ユリも冬へ向けて支度をするようになっていた。ユリの体のこともあるので危ないことは下級悪魔に手伝わせていた。
ユリ、秋とは綺麗だな。すべてが赤い。けれど人の流す血の赤じゃない。と俺が言えば、そうよ人の血の赤は怖いけれど。ユリは血を流すのが嫌か?と問えば、そうね誰かが傷つくのは嫌。と言った。
だが人は人同士とそして悪魔に対しても血に染めるな、と俺が言えば、ユリは少しさみそうに、そうね、と言った。
さわさわと風が赤い葉を揺らして落としていく。ユリが薪を集めながら歩く度に、落ちた赤い葉が音を立てた。風が少し冷たくなってきた。
ユリは秋は実りの季節なのだと教えてくれた。確かに、春や夏とも比べても何か熟したような匂いで充満するようになったと思う。ユリも時折、熟した木の実を食べていた。栗に梨に葡萄という様々なものが溢れていた。
ユリの下腹部にある命も、
少しずつ熟しているようだった。ユリが何かを食べるとそれが命に命を育ませることができるそうだ。
ユリは時折、やさしく下腹部を撫でては、森の向こうを遠い目で見ていることが多くなった。やはりさみしいのかユリ、人間と離れてしまって。と俺が言えば、しばし考えた後、
ユリは首を横に振った。嘘をついている感じではなかったが、それでも人間の心とは複雑らしい。
秋になったせいかしら。少し色々思い出してしまうの。
ユリはそう言った。赤い絨毯に座り込んで膝を抱える。風が吹いてユリの髪を撫でていった。透明度のある涼しい風だとユリの肌を通してわかる。
春に並んで様々な植物も生えるようになっていて、コスモスという花も深い色をたたえて風に揺れていた。ユリは秋の風の中で、どこか遠くを見ているようであった。
俺はその目には俺だけを見て欲しかったのだが、無理強いはしなかった。ユリは人間で様々な想いがあるらしく俺の知らないユリのこともきっと多くあるだろう。
ユリが俺という魔神のことを多くは知らないように。また俺自身のことは俺にも語りつくせない多くのものがあるのだ。ふと、ユリと俺には隔たれたものが多くあるのだと思った。
途端、少しさみしく感じてユリの体を包む。手さえ握れないのが複雑だ。
夏にユリの言っていたことを思い出す。悪魔も人も手を取り合い、理解し合い、愛しあえることができるのだ、と。俺達はそれができていると俺は思うし、ユリもそう思ってくれている。
日が暮れる頃にユリは小屋に帰った。どこかで鳥が遠く鳴く。秋の空は青さを増し、夕方になれば真っ赤に染まった。それもまた紅葉の赤とも人の流す赤とも違って、透き通っていて美しいものだった。
ユリの黒髪さえ赤く染めるほど強い夕焼けは、長い長い影を作った。帰路につくユリの長い長い影は、地面に伸びる。それはユリの影だけである。当然だった。しかし俺は、
その長い黒いユリの影の隣に、俺のがあればいいのにな、と思った。それをユリに告げれば、ユリは、私もそう思うけれどでも、と自分の手を握り締めた。俺はなんとなくそれでユリに手を握ってもらえているような感覚になった。
でも私はあなたの青い炎に包まれるのが好き。
ぎゅっと握られたユリの手には、やわらかく確かな力があった。
俺はそれでもユリの影の側に俺の影が並んでいるありもしない世界を想像してみたが、上手くいかずにはかなく散っていった。
冬が近くなるたびに落ちていく赤い葉のように。
2011.9.23