私の体、使って。
俺に微笑みかけるその姿をみて、実に変わった女だと思うと同時に、その言葉は悪魔である俺が堕ちるほどの甘い魅惑を秘めていた。
ユリの目から見る物質界という世界はひどく眩しいというのが第一印象だ。目が痛くて思わず閉じてしまえば、ゆっくりでいいのよ、とユリが笑いならが俺に言う。
瞼というものをゆっくり開ける。目の前には雪というもので覆われたせいで、真白い世界。目が痛いと感じたのはおそらくそれを照らす金色の光。あれはなんだ。と俺が問えば。あれは太陽よ、朝日なの。とユリは鈴のような声で答えた。
そうか、あれは太陽か。
ユリの中にある光と似ているな、と俺が言えば、ユリは不思議そうに首をかしげた。
うら若い女の体にて、俺とユリは共有みたいな形で意志の中、まるで合わせ鏡のようにお互いが存在していた。この奇妙な憑依の状態は、おそらく虚無界にいる俺の創造したガキ共のどれもが経験したことはなかっただろう。実際俺さえ初めてであった。
相手を侵食するわけでもなく、また俺がいても焼けない稀有な体。そんな稀有な女だったユリの中で、ユリの目を、手を、指を、足を、肌を、髪を通して味わったことのない物質界に触れることは、
俺には抗い難いことであった。最も、悪魔は耐えることなどしないのだが。俺は今まで触れたく触れることもできなかったものが目の前に溢れたことで、妙な高揚感を感じていた。
ユリと出会ったのは冬であった。
私の体、使って。
俺に微笑みかけるその姿をみて、実に変わった女だと思うと同時に、その言葉は悪魔である俺が堕ちるほどの甘い魅惑を秘めていた。
ユリの目から見る物質界という世界はひどく眩しいというのが第一印象だ。目が痛くて思わず閉じてしまえば、ゆっくりでいいのよ、とユリが笑いならが俺に言う。
瞼というものをゆっくり開ける。目の前には雪というもので覆われたせいで、真白い世界。目が痛いと感じたのはおそらくそれを照らす金色の光。あれはなんだ。と俺が問えば。あれは太陽よ、朝日なの。とユリはやわらかな声で答えた。
そうか、あれは太陽か。太陽というものはきらきらしていて。白い世界を余計に白くさせているようだった。それなのに、ユリの肌を通して感じる温もりが俺は不思議であった。太陽は暖かいのだな。と俺は知る。そうよ。とユリは頷いた。
ユリの白い肌からじんわりと内部にまで伝わる熱。瞳が焼けるのではないかというほどの、眩しい金色。あのくらいくらい底の闇夜である虚無界には、決して存在しない光景であった。
眩しい。それはユリの中に初めて入ったときと似たような感覚であった。太陽という光はユリの中にある光と似ているな、と俺が言えば、ユリは不思議そうに首をかしげていた。
冬という季節は寒かった。呼吸をするたびに吐息は白く染まり、消えていく。ユリの肌からぴりぴりしたような痛みを常に感じていた。寒くないかユリ。と問えば、そうね、少し寒いわ。とユリは頬を赤くしながら言った。
俺と出合ってからユリは山奥の小屋に住み着くようになった。ユリは自ら薪を集め、小屋の粗末な暖炉で火を熾していた。赤い炎。俺のとは違う人に与えられた火。それはまるで
人の流す血と同じような色だった。ユリはそれで暖を取る。小さな手を擦り合わせて、はあ、と息をかける。寒いかユリ。ともう一度問えば、そうねでもすぐ温かくなるから、とユリは言った。それでも中々古い暖炉では火は熾きにくく、
ユリの手先が震えていった。俺は、思いついて暖炉に青い炎を熾した。俺のものであり俺だけが持ちえている神の炎とも言われるそれを、俺は一人の女のために熾した。
ユリは驚いていたが、おまえが望めばおまえの好きな温度にできるんだ、と説明すれば、すごいね、とユリは笑った。ユリは俺の、人間ならば誰もが恐れるであろう青い炎で体を温めた。
あなたの炎はやさしいね。
とユリは体を温めならが言った。そんなことを言われたのは初めてであった。
やさしいのか?
そうよ、やさしい、やさしい炎。やさしいことのために使えるのね。すごいね、あなたって。
そうか、すごいといわれるのは悪くない。
俺は嬉しくなって、暖炉だけではなくユリの体をやわらかく炎で包んでやった。ユリは毛布と俺の炎に包まれながら、冬の夜を眠っていった。おやすみなさい。とユリは毎晩俺に言ってくれた。
ユリの体は、とてもやわらかく、
温かであった。
2011.9.23