From 奥村雪男

 

「…どないしたらええんや…」

すでに寮の門限まであと30分を切ったところである。
早いところ寮に戻って訓練場で流した汗をシャワーで流したいところなのだが、 秋の終わりも近づき冷たさを増した風が吹く中、勝呂竜士は立ち尽くしていた。原因はたった今送られてきた一通のメールのせいである。
「奥村雪男」。
メールの送り主は彼であった。詠唱騎士の他にも竜騎士志望である勝呂はこのところ週に2、3回ぐらいは塾が終わってから雪男から訓練場で竜騎士としての個人訓練を受けている立場であった。 今日も先ほどまで的にひたすら弾を当てる訓練を彼の隣で繰り返してきたところだ。皮膚に張り付く汗がその証拠。塾の講師に祓魔師に双子の兄である燐の世話と監視にと忙しい立場であるあの若先生が、 わざわざ自分の訓練のために時間を作ってくれるのだから、勝呂は感謝していた。全然的に当たらない自分の銃の腕を厳しく叱咤しながらも適確なアドバイスを言ってくれる。 本当に同い年には思えない、と勝呂はつくづく思うのだ。そして本当にあの奥村燐と二卵性とはいえ双子の兄弟には見えない、と。本当に血が繋がっているのかとちょっぴり疑ったこともあったりする。 それだけ正反対な兄弟であるのだ。優秀で講師をしているのだから当然だが、勉強もできて常に冷静沈着、おまけに最年少で祓魔師の資格を取得したという実績。まさに文句のつけようのない天才。 対して、兄の燐は…授業中は寝ているし、テストの結果など毎度散々で進歩の兆しも見えないし、そのせいで弟である雪男にいつも怒られているし、お調子者だし楽観的すぎるし、ぶっちゃけあと半年後の祓魔師の資格取得に合格しなければ処刑されるというのに、 今一危機感がなくて最近では勝呂と他の塾生が焦っているぐらいだった。勝呂も若干不本意ではあるが、彼が処刑されないためにと勉強を教えてやっているのだ。 それなのに、今一呑気な燐に対して頭痛が増してくるのは仕方がないことだろう。おまえちっとは若先生を見習え。と何度言ってやったことか。その度に燐はむっとしたように頬を膨らまして、
『雪男だってあれでも甘えん坊だからちょっと困るんだよ』
と言い返してきたことがあったが、んなわけあるか阿呆、とその言葉を信じなかった勝呂だった。信じられわけがない。どこをどうしたらあの完璧で優秀で冷静沈着な若先生が「甘えん坊」な図など想像できようか。 できるわけがない。そしてそうであるわけもない。
しかし、そう思っていたのは、つい数十秒前までのことであった。
その数十秒前に送られてきたメールを今一度、恐る恐る覗き見る。やはり見間違いとかではなかった。送信者は「奥村雪男」。間違いない。しかし、このメールの内容はなんであろうか。



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●/■ 20:00
From  奥村雪男
Sub  終わったよ!帰るよ!

兄さぁん、今、勝呂君との個人訓練終わったよ(*^v^*)
今から片付け終わったら帰るね、早く兄さんの顔みたいなあ。今日の晩御飯なに?もう作っちゃった?今日は遅くなるかもって言ってたからまだかな?
もしまだなら僕、今日はお鍋が食べたいなあ(人´∀、`〃)。o○
兄さん特製の「雪男鍋」!大根おろしとお魚たあっぷり入ったやつ!
最近、すっごく寒くなってきたから兄さんのあったかいご飯食べたいんだもん。
おまけに勝呂君との個人訓練すごく疲れてさあ。僕もお手本に銃を撃ちまくったからすごく手と腕が疲れちゃって…
ねえ、兄さん、帰ったらお手てモミモミしてくれる?(*・ω・*)
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ぱん!
思わずケータイを閉じる。
やはり見間違いではなかった。From 奥村雪男 間違いない。あの若先生からのメールであるのだが、しかしこの内容はなんであろうか。明らかに自分宛てではない所謂、誤送信だ!しかも、兄の、燐宛への、メールだ!
その内容がこれだ。
勝呂は今だ、自分の目を疑っている。これは夢ではないかとほっぺをつねってみて、再度ケータイを開きそのメールを確認するも、やはりメールは現実を据えたままそこにある。 うん、やはりこれは若先生からの間違いメールである。何がどうして間違って自分に送ってしまったのかその辺は深く考えないようにしよう。誰にだって間違いはある。 ケータイの操作を誤って違う人にメールを送ってしまって赤っ恥!なんてよくある話だ。よくある話なのだが、しかし、これは。
すごく、キモイ。
赤っ恥なんてレベルじゃない。
その前に、このようなメールを雪男が送るという点でも勝呂は信じられなかった。しかし、現にそのメールはそこにあり、何度読み返しても同じであった。普段の言動とメールの内容に差がある人など珍しい話ではないが、 それにしたってこれは。これは。
勝呂はひとつ、深呼吸をした。そして、か!っと目を見開き。

なんやこのメールは!?キモイわ!まず「兄さぁん」のちっちゃい「ぁ」がキモイ!兄さんの顔が早く見たいってなんやねん!あんたさっき「たまには部屋で独りでゆっくりしてたいときもありますねえ」って苦笑してたばかりやないか! お手手モミモミってなんやねん!あんたは兄にお手手をマッサージしてもらうんか!?その前に「お手手」ってなんやねん!そして個人訓練の愚痴をさりげなく書いてあって俺は少し傷つきました!すんません!でもつっこませてください! なんなんですかこれは!「食べたいんだもん」って男が「もん」いうなや!しかも(*^v^*)とか(人´∀、`〃)。o○とか(*・ω・*)とかなんっでそないなかわいい顔文字を使うんですか!?あんたは彼氏にメールを送る女子高校生か!?

しかもなんやこれなんやこれ!「雪男鍋」ってなんぞや!?大根おろしたっぷり!?なんやねんその鍋!?

と彼が心の中で一気につっこみをしたことは、せめて声に出さなかったのは褒められたことだろう。
しかし「雪男鍋」とはなんであろうか。勝呂は雪男の兄へのキモイメールの衝撃の中でも、生真面目にその謎の単語の意味を考えた。大根おろしたっぷり!?「雪男鍋」!? なんだそれは。とこれでも母親の旅館で育ててもらったので料理に関してはそれなりに知識はある(知識があるだけでまるで料理はできないが)。勝呂はその優秀な記憶力の中から謎の「雪男鍋」 に当てはまるものがないか探り当てた。大根おろしたっぷり…あ、あれか!

雪見鍋のことか!
いやいやなんで雪見鍋のこと「雪男鍋」いうてんねんこの先生は!?なんで自分の名前入れてんねん!それで兄に通じるんか?いや通じるからこないな言い方なんか!?もしかしてあの兄弟の間では「雪見鍋」は「雪男鍋」で通っているのか! それが普通なんか!?確かにあの双子の兄は料理だけは褒められますけども!旅館経営してるうちのおかんさえも奥村の料理を食べて「あんたうちに嫁にきなさい!」って(嫁ってなんや!)って感動して言ったぐらいやけど。 そういえばあの時の若先生、わずかに殺気出しておったような…いやそれはええ!そないな美味い料理作れる兄に料理をねだることは別にええかもしれんけど、それでも、

「なんっっっっっやねん!このメールはああああああ!!!?」

ついにここで耐えられなくなって勝呂は叫んだ。思い切り叫んだ。誰かに聞かれていようともう構わない。叫ばせてくれ。叫ばずにはいられないだろう、こんな普段の印象とかわいいぐらいでは済まされないほどのギャップのある(しかも兄宛の) メールを送られたこっちの身にもなってみろというものだ。あなたは考えたことがありますか。普段、優秀で冷静で講師として塾生の勉強を教えていて、女子にモテモテで学園でも学年一位の成績を誇り、 最年少の祓魔師記録を持ち、天才などと謳われている人間が、兄に対してどうしようもなく甘ったれで顔文字連発でキモイ丸出しのメールを送っていて、あろうことはそれが自分に誤送信されるだなんて。
勝呂は頭を抱えて座り込んだ。夢ならすぐに覚めて欲しいが、残酷なことにこれは現実である。ええいこの際、あの若先生が兄に対して確かに甘えん坊でこのようなメールを送るという衝撃的な真実についてはあまり深く考えないようにしよう。 それより、考えなければいけないのは、このメールに対して自分はどうしたらいいのかという点である。普通なら「間違ってますよ」って送るべきだが、その勇気を持っているやつがいるなら俺の代わりに送ってくれ、と 勝呂は思った。俺はどないしたらええ。と勝呂が泣きそうになったとき、再びケータイがぶるぶる震えた。またメールだ。まさか、先生から間違いに気付いてくれたんだろうか、と勝呂は期待を抱いてすぐにそのメールを開いたわけだが。



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●/■ 20:05
From  奥村雪男
Sub  忘れてた!

忘れてた、ねえ兄さぁん、この間僕に作ってくれたプリンなんだけど、今日また作るって言ってたよね、塾のみんなの分も一緒にって。今度はバニラと抹茶とチョコ味にしてみるって言ってたよね?
ねえ、僕の分もあるの?あるなら今度はチョコ味が食べたいなあ!この間のバニラ味もすっごくおいしかったけど!
本当にあのプリンすっごくおいしかった!あんなにおいしいプリン僕食べたことないよ!おいしすぎて涙出てきちゃったもん!
もうプリンの中のプリン、パーフェクトプリンだよ(*>ω<*)オイチカッター
ねえねえ、兄さん!チョコ味残しておいて。お願い(*´∀人)
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ぱーん!
壊れそうな勢いで勝呂はケータイを閉じた。だから、なんで、間違って、さらに、送るのだ。しかもなんださらに痛いこの内容。

パーフェクトプリンってなんやあああああああ!!!!!
プリン、あんたはそないに兄の手作りプリンが食いたいんか!?よおこないな恥ずかしいメールをあんたは送れるな!もしかしてずっとこういうメールを送ってきたんか、実の兄にか!?俺は一人っ子やけど 普通の兄弟でこないやメールを送ったりはせえへんってぐらいはわかっとるわ!もしこういうメールを送るのが当たり前ならこういうメールに対して兄はどう返してきたんや!何を思って!ああすまん奥村『雪男はあれでも甘えん坊でちょっと困る』 って言葉信じてやらんで!これはもう甘えん坊とかいうレベルやないけど、おまえはがんばってきたんやな奥村!なんやちょっと涙出てきたわ…何の涙かわからへんけど…。

と勝呂は、実は甘えん坊で…もうわかったが極度のブラコン通り越して実は兄依存症なのではないかという弟に何を思いながら世話をしてきたのか、想像しただけでよくわからない清い汁が目から出てくるのであった。 『甘えん坊でちょっと困る』の他にも『…あいつの将来が心配だ…』とも零していて今ならその意味がすごくよくわかる。ああしかし現状をなんとかしないと。誰か助けてくれ。 俺はこのメールに対してどう対処したらええのか。と勝呂が髪をかきむしったとき、さらに、追い討ちをかけるようにメールが届いた。



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●/■ 20:10
From  奥村雪男
Sub  (`・з・)ブー

ねえ…兄さん。なんでメールの返信くれないの?
5分以内に返信くれないと僕拗ねちゃうよっていつも言ってるよね?
本当にすねちゃうよ、一時間口利いてあげないよ、そんなの僕も兄さんも寂しいだろう、ねえ兄さん返事ちょうだい(`ω´*)



あああもうアカン!この人めんどくさい!
勝呂はさらに誤送信されたメールを見て、激しい頭痛を覚えた。だれか頭痛薬を持ってきてくれ、こういう時に限って忘れました。と、勝呂はそのメールはさらに続きがあるのに気付いた。 下げていくと、続きがあったのだ。勝呂の本能は、アカンそれ以上見るな!と警告するのだがここまできたらもうヤケというかなんというか。しかし、見てしまったことをすぐに後悔する。



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●/■ 20:10
From  奥村雪男
Sub  (`・з・)ブー

ねえ…兄さん。なんでメールの返信くれないの?
5分以内に返信くれないと僕拗ねちゃうよっていつも言ってるよね?
本当にすねちゃうよ、一時間口利いてあげないよ、そんなの僕も兄さんも寂しいだろう、ねえ兄さん返事ちょうだい(`ω´*)











あと3分で返事くれなきゃ、今日はお鍋よりもプリンよりも兄さんを食べちゃうよ。
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これはもう、アカン。
人間、衝撃的すぎるものを見てしまうと逆に冷静になるものだ。最後にあったこの内容。完全に勝呂の思考範囲外であるのでもう考えないようにしよう。誰にだって秘密はあるさ。 俺はもうこれに関してはなんもいわん。なんも考えん。深く考えん。ただし、同情はする奥村。だから俺はおまえの身(?)のために三分以内に返事をしようと思う。それが今の俺にできる精一杯のことや。 無心になれ勝呂竜士。勇気を出せ。



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●/■ 20:12
To  奥村雪男
Sub  勝呂です

先生、さっきは個人訓練ありがとうございます。お疲れ様です。
大分疲れていらっしゃるんですね。
今までのメールの宛先、確認してください。
大丈夫です、俺はなんも言いません。
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そぉい!と掛け声で自分を奮い立たせて送信。すごい達成感であった。心は爽やかである。むしろすんません、先生。もっと早くにこうするべきでしたね。と勝呂が妙な達成感に一時、現実逃避をしていたら、 再びケータイがふるえた。返信きた!と思い、今までのメールを間違って塾生に送ってしまった先生の心境はあえて考えないようにして、ケータイを取り出したが、
まさかの通話である。
え!メールやないの!通話なの!?勝呂はぶわ!っと変な汗がさらに出てくるのを感じたがここで通話を取らなければいけないような気はしている。 ぶっちゃけすごく嫌だけど。先生ある意味勇気あるわあ。あんなメール間違って送っておいて電話をかけるだなんて。それともけっこう混乱しているのだろうか。 勝呂はディスプレイの「奥村雪男」と表示されながらぶるぶる震え続けるケータイを持って、今一度勇気を奮い立たせて、そいや!と押した。通話ボタンを。ぶつ。この先に繰り広げられた会話を、勝呂は一生忘れられない。



『………勝呂くん』
妙に冷静な声音に、あ、この人大分混乱してるなあ、と勝呂は悟った。そして自分も。
「……はい」
『…すみません』
「…は、はい…」
『……今までのことですが、これはお互いなかったことにしましょう』
「……そうですね」
『その方がお互いのためになりますしね』
「…はい」
『今までのメールはすべて削除してください』
「…はい」
『いいですか、削除ですよ。削除と同時に全て忘れるんです。あなたの頭の中からも削除するんです。そして明日は何事もなかったことにするんです。僕もそうします』
「…ああ、はい」
『いいですか、それでは、僕がこれから「3,2,1」と言いますからそれと同時ににメールを削除してそして記憶の中からも削除をしてください。大丈夫、優秀な君にならできる』
「…は、はい」
『……ではいきますよ、3,2,1…はい!』



ぶつ。
通話が切れたと同時に、メールを削除、削除、削除!
そして頭の中からも削除!おん、すっきりした!何悩んでたんやろう俺、もうなんも覚えてないなんも知らん!これから寮に帰ってシャワー浴びて明日の予習して夜食食って寝るだけや!今日も充実した一日やった!















なんて、人の記憶が都合よく都合の悪い記憶を削除きでるというならば、昔の黒歴史をふと思い出して恥ずかしさに悶えるなんてこと誰もせずにすむのだ。
勝呂はこの時ほど自分のそこそこ記憶力のいい頭を呪ったことはない。いや、どんだけ記憶力が悪かろうとあんなことがあったのでは簡単に忘れるほうが無理なのだが。 それでもこの時だけ、勝呂は(ちょっと失礼だが)奥村燐のあっけらかんとした脳みその作りを羨ましく思ったものだ。つまり翌日の塾はまさに地獄であった。 若先生の顔を直視どころか腕を見ることさえもできず(お手手モミモミ)、内容だってまるで頭に入ってこない。当然、ノートも取れない。指がぷるぷるするし、今、雪男の声さえも耳に入れれば変な汗がぶわああ!と出てくるのだ。 そしてあのメールの内容はやっぱり頭の中からは削除できず、嫌でも思い出してしまうのだ。兄さぁんのちっちゃい「ぁ」とか。雪男鍋とか。パーフェクトプリンとか。 (*^v^*)とか(人´∀、`〃)。o○とか(*・ω・*)とか(*>ω<*)オイチカッターとか(*´∀人)とか(`・з・)ブーとか(`ω´*)とか。お鍋よりもプリンよりも兄さんを食べちゃ、うわああああ!!!!
これは辛いなんてものではない。どんな苦行よりも苦行であった。
しかもいたたまれないのが、やはり雪男もあのメールを誤送信してしまったいう事実をうまいこと頭の中から削除できていないらしい点である。授業中にたぶん10本ぐらいチョーク折ったし、 声は冷静だがついには杜山しえみにまで「…雪ちゃん…持ってる教科書さかさまだよ」と注意される始末。恐ろしくて顔は見れないが、あのいつもの爽やかな笑顔の下で何を思う、どれほどの羞恥心を隠して教壇に立っている。 ついにはどこかおかしい弟の様子に兄まで気付いたのか、「雪男、大丈夫か?」とまで聞かれていた。「大丈夫だよ」と答えた声が随分冷静すぎて勝呂は逆に怖かった。 ああ、いつになったら俺はあの記憶を削除できて普通に授業が受けられるようになるんやろうか。それが途方もないようなことに思えて、勝呂はひたすら心の中で経を唱えていたのだであった。そのため、 その日の小テストはさんざんたる結果であったが、雪男は何も言わなかった。







「あ、勝呂まだいたのか、よかったー」
ようやく苦行を越えた奥村雪男の授業も終わり、塾の全ての授業が終わり、みんなが帰って(志摩と子猫丸もなんか様子のおかしい勝呂を気遣って一人にしておこうと先に帰った) なんとなくふらつく足でもう今日は訓練も(今はできるわけない)予習もやめにしてこのまま寮に帰って寝てしまおう、と席を立ったときだ。 先に席を立ってどこかへ行っていた燐が片手に箱を抱えて戻ってきていた。ああもう今は燐の顔さえ見るのが苦行だが、こいつに罪はない、と勝呂は「なんや」と いつも通りにぶっきらぼうに答える。
「これ、なんだけどさ」
にぱっと無邪気な笑顔で箱の中身を見せる燐。それを見て、勝呂は固まった。
プリンだ。
ぶわあああ、と昨夜のメールの内容が一気に蘇えってくるのを誰も責められまい。パーフェクトプリン…ええい煩悩消えろ!冷静になれ俺!
「…これどないしたん?」
「おう、最近さ、お菓子作りにはまっててさ、これこの間雪男が、美味い!って褒めてくれたやつなんだよ。それでそんなにうまく作れたんならみんなにもどうかなーって思ってさ。 作ってきたんだ!調理室の冷蔵庫に入れててみんなにはもう昼休みに渡したんだけど、おまえだけいなかったから、」
今日の昼休みは勝呂は傷心(?)を癒すために屋上で一人で無心にパンを食べていたのだから、捕まらなかったということだろう。
「よかったら食えよ!味には自信ある!」
そりゃああの弟がパーフェクトプリン!って褒め称えるぐらいだし、と勝呂は苦笑を呑みこんで、こいつに罪はない、と言い聞かせ、ほんならもらうわ、と残り二つだったプリンを確認してまた固まった。
「あ、バニラと抹茶とチョコ味作ってきたんだけどなんか抹茶が人気でさーもうバニラとチョコしか残ってねえの。勝呂、好きなほう選べよ」
俺はもう味見で大分食ったから大丈夫!
と昨夜、勝呂と弟の間でやり取りされたメールの内容なんてきっと知らないのであろう燐の無邪気な笑顔に何故か変な涙が溢れてきそうになったが堪える勝呂だった。 俺はもう大丈夫。ということは残りの一個は弟のためのものなのだろう。そしてこの様子からあの間違いメールを雪男は再び兄に送る気力はなかったらしい。ということはおまえ、昨夜は無事(?)やったんやな、よかった。と 勝呂が胸中思っているなんて露知らず。好きなほう選べ!と差し出されるプリン。ふわん、とバニラのチョコの絶妙な香が鼻をくすぐった。これは 甘いもの苦手な人でも食べてみたくなるほどのものだ。見た目と香だけでもパーフェクト感漂うプリンを見て、勝呂は潔く決めるのであった。



「…俺は、バニラでええよ」



いただいたプリンは本当に涙が出てきそうなほど美味かった。











2011.11.20
ついったーで奥さんへのメールを間違って娘に送ってしまったかわいいお父さんの内容のツイートが出回ってて、そこから「雪男が兄さん宛への痛いメールを塾生の誰かに送ればいいのにねー」って 語り合いになってその語り合いをふと思い出したところからできあがった話。正直、色々すみませんでした。