梟の骨 1

 

『できそこないめ』



生まれたばかりの私が最初に聞いた声がそれであった。
私には何も備わっていなかった。ただ目の前に暗闇が広がっていて、何もわからなかった。何も聞こえない感じられない何も見えない。ただ、 私を創った「父」の声だけが私の中に響いていて、その重く低く歪んだ声に私は押しつぶされそうだった。 私はひどく未完成なものとして生れ落ちてしまったのだ、と。私は理解していた。そして「父」に気に入られなかったことも。
『やぁっぱり、俺の心臓だけでガキは創れねえか、けっ、心臓の一部を削って損したぜ』
まあ時間はかかるが回復するからいいけどな。
「父」は考えあぐねいているようだった。自分以外の悪魔を創るにはどうしたらいいか、自分の炎を継いだ悪魔を創るにはどうしたらいいか。 私はそれの失敗作なのだと私は理解して、その途端、一体私は何で創られたのは気にかかった。しかし、私は声も出すこともできない。 何も見えない。何も見えないのだが確かにそこにあると感じる「父」の青い炎に縋りたかったがそうすることさえできない「肉体」であった。ああ、 私は「父」の心臓の一部の塊でしかなくそれなのに意志を持ったことが、今でも恨めしい。 私の縋るような「呼びかけ」に「父」は気付いてくれたのか、しかし、けたけた嗤ってこう告げた。

『おまえには何にもねーよ』

ぼちゃん。
私の「肉体」はどこかへ投げ出された。ああ、捨てられたのだ、と理解した。私には何も見えないし聞こえないが、何か「肉体」に纏わりつくどぶどぶした泥に沈んで、 流されていくのを感じた。ああ、父上。と私は叫んだつもりだったが私の叫びは声にもならず、「父」にはその声は聞こえていたはずだったのに、 返事はなかった。ただどこか遠くで「父」の嗤う声が木霊しているだけであった。



私はどこかへ流された。何か掴んで留めようにも私は何も持たずに生まれてしまったので、流されるままにどぶりどぶりと呑まれていく。 底の底へ呑まれていく。視力のない私の視界は生まれたときから真っ暗であったが、それさえ呑み込むほどの暗闇へ。
いやだ。
私は叫んだ。しかし、誰も聞いてはくれない声にさえならない。
いやだ、父上、私を捨てないで。捨てないで。あなたが望むのならちゃんとした「肉体」を持ちます。あなたが望むのなら鋭い牙も爪も持ちます。 あなたが望むのなら青い炎も。
いやだ、父上、捨てないで。父上、父上、父----------------











私はどことも知れない虚無の底へと沈んでいった。











「父さんっ!」
大きな青い目をぐりぐり輝かせて、小さな両手にやさしく何かを抱いていた。それは、ぴいぴい、と鳴く梟のヒナであった。 それを抱えて燐は獅郎にいっぱいの笑顔を向ける。しかし、いつもならその笑顔に笑顔で答えるはずの獅郎の顔は怪訝そうにヒナを見つめていた。
「…燐、おまえそれ…」
「ね、ね、元気になっただろ!これなら雪男も、もう泣かないだろ!」



燐の腕に抱かれて鳴く梟のヒナは、まるでこの世のものではないかのような青い目を瞬かせて、ふわり、と産毛を逆立てていた。











2011.12.24