寝てたけど、今起きた…すこし一時間ほど経っただけだけど…晩飯の準備までちょっとだけ時間あるから、また忘れねえうちに…。
…俺は…。
また俺は夢を見た…。なんだかツギハギだらけの
布のように、ぶつぶつ、切れながらの夢だったから、どれがどういう関連にあるのかわからねえけど…とりあえず、忘れねえように、書き残しておく。
こんな夢だった。
「寮」の「602号室」で「俺」と「雪男」がいた。…あ、これ、前、燃えかけた夢なんじゃないだろうか、と俺は夢を見ながら考えていたと思う…。
その夢の中の「俺達」はこんな会話をしていた。夢を見て、会話が聞こえてきたのは初めてだった。
『雪男』
と「俺」が言っていた。「雪男」を見る俺の目は、なんかすげえ恐いと思った。自分の目のはずなのに。青い目の奥で、あの炎が燃えているように見えたんだ。
内側で、じくじく、と。燃えているみたいに見えた。そんな「俺」は「雪男」に言っていた。
『親父(ジジイ)に言い聞かされておまえ、そうしてるっていうんなら、縛られることはねえぞ。おまえは真面目だから…親父に言われたとおりにしなきゃ、って
意地になってムキになってるだけだ。でも、俺は、おまえを俺は縛らない。おまえに縛られるつもりもねえ』
…「俺」はそう言っていた…何がどうしてそういう会話になっているのか、でもたぶん「俺達」の様子を見るに「雪男」が「俺」に「好きだよ」
と言ってしまった後、話し合っているときのかもしれなかった。でも俺は夢見ててわけがわからなかった。思い出せないんだ。まるで
他人のことを見ているみたいで、どうしても俺の頭の中に入ってこないんだ。
『なんで…そんなこというんだよ』
と雪男がすごく冷たい顔でそう言っていた。メガネの奥の青緑の目が、氷みたいで、俺は、雪男ってこんな顔するんだ、とおどろいた。
『おまえのためだ』
と「俺」は言った。
『何がどうしてそれが僕のためになるんだ。…僕だって…僕が兄さんにしたことは間違ってるってわかってる。それはもうなかったことにしていい。
でも、いくらなんでも…』
と「雪男」は言い返した。「俺」は、雪男、と言った少し怒鳴るようにして言っていた。
『俺達は兄弟だ。でもそうやってお互いぐるぐるお互いを巻き込むことだけはダメだって言ってるんだ。だから、雪男、おまえまだ間に合う。
生き方、変えろ』
ダメだ、それ以上いうな、と夢を見てた俺は思った。でも、「俺」は言ってしまったんだ。
『「俺を守る」とか、そんなことに捕らわれなくていいんだ。それは、おまえ、親父にそうやって刷り込まれただけだ!おまえが俺へしたことも、
それでもせめて「俺を守りたい」って言うことも…全部、ニセモノの感情だ!おまえのためにはならない、だから…もう止めろ!もうこれ以上、俺を想わないでくれ!!』
ああ、バカ。と俺は思った。でも言ってしまった「俺」はまるでそう言ってしまうことは、前から決めていたみたいに、何か
覚悟してたみたいに、そんな目でそう言っていた。俺はこわくて「雪男」の顔は見れなかった。でも夢の「俺」は
しっかり「雪男」を見ているようだった。なんでどうして、「俺」はそうやって現実を見れるのか、自分のことならがそのバカとしかいいようのない度胸を笑いたくなるほどだ。
でも、しばらく「雪男」は黙っていた。沈黙が、痛くて痛くて、俺はもう見ていたくなかったんだけど、夢は続いた。でももう嫌だと思ったとき、端の方で青が燃えた気がしたんだ。
『兄さんは…僕の生き方だけじゃなくて、神父さんのことまで否定するんだ』
やがてそう言った「雪男」の言葉は冷たくて、心ぞうに突き刺さるみたいだった。端の方で、写真を燃やすライターの炎のように、小さく青が燃えたのを俺は見た。
そして、「雪男」は、よくわかったよ、と言った。きい、と「602号室」の扉を開けて、「雪男」はもう出て行こうとしていた。俺は、
「行くなよ、雪男」
と
言いたかったけど、声が出なかった。
『だったら独りで生きればいいさ、兄さん』
と雪男が温度のない声でそう言い放った。
「俺」は黙っていた。うつむいて、床ばかりを見ていた。
扉をくぐる寸前に、「雪男」の深いため息がして、
『僕たち…兄弟なんかじゃなければ、縛られることも、なかったんだろうね』
兄弟なんかじゃなければ、よかったんだ。
と言ったんだ。その時、ごう、っと端の方で炎が燃え上がった。
その次。たぶん、夢の場面は変わっていて、今度は、
「俺」がくちびるを血がでそうなぐらい噛みながら、
自分の拳を見ていた。なんとなくそれで、それは勝呂を殴ろうとしてしまったときの「俺」なんだろうと気付いた。「雪男」もいた。
でも机に座って、「俺」には背を向けていた。「雪男」はただ、
『危うく勝呂くんを殴るところだったよね。兄さんは何度、昔と同じことをするつもりなんだよ』
やっぱりそれは「俺」が塾の三日間出席停止を食らった直後のことなんだろう、と思った。
『そうやって、兄さんが不安定になって周りに迷惑かけるぐらいだったら、もう何も、全部、なかったことにしようか』
ぜんぶ、なかったことに。
「俺」は黙っていた。でもそのときの「俺」は、何故か、頭を押さえて、顔をしかめていた。おでこには脂汗が浮かんでいた。その「俺」はきっと頭が痛んで仕方なかったんだろう、と
俺は思ったけど、「俺」は、何か言いかけたが止めていた。でも
俺にはわかった、きっと「頭がいたい、雪男」って言おうとしたんだ。でも雪男は、ちら、っと頭を抑えている「俺」に気付いて、こうとだけ言っていた。
『頭でも痛いの』
「俺」は答えなかった。
『適当に薬でも飲めばいいよ』
淡々、と「雪男」はそれだけ言った。そしてエクソシストのコートを手に取って、出て行った。そのまま「任務」に
行ってしまったんだろう…。「俺」は独りになっていた。
「雪男」が出て行って、独りきりの部屋で、「俺」は、ベッドの上でふるえながら体を丸めていた。そして、こう言っていた。
『俺は悪魔だ』
それは、自分をあざけるとかそういう風に言ってるんじゃなくて、ただそこにある事実を言っているように見えた。「俺」の「悪魔のしっぽ」は
ゆらゆらゆれていた。
『だから、ダメだ』
バカやろう、何が、ダメなんだよ、と俺はうなだれている「俺」に叫んだと思う。
次にまた場面が飛んでいた。
『雪男の好きな食いもんってなんだっけ?しえみ、俺、忘れちまったみたいだから知ってたら教えてくれ』
と「俺」は頭を軽く手でおさえながら、しえみに笑いかけていた。私、知らないよ……燐、本当に忘れちゃったの?と
しえみは「俺」の質問にとまどっていた。あと、頭、痛いなら後で雪ちゃんに診てもらおうよ、と、「俺」のことを心配してくれていた。そのしえみの白い手が、
煮詰める薬品の中に、薬草を入れていた。
そして、直後、「俺」がしえみをかばって、頭の右側から、ぼたぼた、と血を流していた。すごい出血だった。
それがしえみの和服を汚してしまい、しえみがしきりに、燐、燐!と泣きながら言っていた。「俺」はどこかうつろな目をして、
血の出ている右側を、手で押さえていた。でも傷が痛んでいたんじゃないと、思う…頭の奥が痛かったんだ。
『兄さん…!?』
と「雪男」が叫んでいた。
そして、また青い炎があがった。その時、
「よくお考えなさい」
という
メフィストの言葉を思い出して、俺は、燃えるな、って叫んだ。
ダメだ、燃えるな、これはなんの解決にもならない、ぜんぶなかったことになんてできないんだ。
だから、俺の記憶をくわないでくれ、って。
俺はそこで目が覚めた。は、っとなってベッドから飛び起きれば、刺すような頭の痛みに、くらくらした。汗もぐっしょりかいていた。
俺はしばらく米神を抑えて頭痛に耐えた。ものの数分で痛みはなくなったけど、その夢の内容だけが、ずっと頭の中をぐるぐるしていた。
そうか、「俺達」は、あんなことがあったんだ、と。俺は、でもきっと「思い出した」のとは違っていて、メフィストの言ったとおりにまるで一線引いたみたいに「俺達」を
見ていただけだった。どうしても、頭の中に入ってこない。
「俺」は「雪男」にあんなひどいことを言って、「雪男」は「俺」に「兄弟なんかじゃなければ、よかったんだ」って言ったんだ。
俺は、気がつけば泣いていた。これを書いてる今も、涙が出てきてとまらねえ。
俺が全部を忘れて、雪男と俺は兄弟なのかどうかわからなくて、ふるえていたとき、雪男はアルバムを持って「僕たちは兄弟だ」って
言ってくれた。俺が頭痛を起こして、具合が悪くなったときも、すぐに薬を飲ませてくれて、やさしくしてくれた。ずっと俺の心配をしてくれた。「ひとりにしないよ」って
言ってくれた。
「俺」と「雪男」に何があったのか、それを「見た」今ならわかる。雪男は、ずっと俺にあんなことを言ってしまったのを、俺を独りにさせたのを、後悔してたんだ。
こんな日記に書いても意味ねえかもしれねえけど…
ごめんな、雪男。
ほんとに、ごめん。「俺」あんなことをおまえに…。ああ、そうか、俺、ずっと、雪男に謝りたかったのかもしれない、あやまりたくて、あやまって、それで、
どうしたかったんだろう…。「俺」はどうしてあんなことを「雪男」に言ってしまったんだろう。一体、何を望んでいたんだろう、「俺」は。
ああだめだ、思い出せない、思い出せない…「俺」の気持ちが思い出せない。「俺」はどんな気持ちを持って、「雪男」にあんなことを言ったのか、どうして
大好きな弟を「拒絶」したのか。
俺は「俺」を理解しなきゃいけないのに。
ああ。くそ。また頭痛が…
っていうか、これ、
頭痛なのか?
…俺、いま気付いた気がしたけど…
これってほんとに、頭痛なんだろうか。
なんか…
じっくり考えれば…頭の中が燃えるみたいに熱いのを
ずっと頭痛ってカンチガイしてたんじゃないだろうか。
燃える?
あの青い炎が俺の中でか?そんなことってあるのか?
ああ、くそ、だめだ、そうおもうと、あつい…もう日記、やめて、あー…そうだ、ゆきお、にでんわ、して、ゆきおに。
ゆきお、とはなさないと、あやまらないと…ぜんぶ。それで「おれたち」。
あたまんなか、あつい。
2011.6.26