●月?日 くもり
今、雪男が寝てるので起こさないようにするために俺は動くことができない(何故なら雪男は俺の太ももを枕にしている…)。
動けなくてヒマだし、ちょっと俺の気持ちも整理したいから、雪男が着替えと一緒にわざわざ寮から持って来てくれたらしい、この日記を書こうと思う(
たぶん毎日俺なりにけんめいに書いていたから、気を使ってくれたんだろうな)。
…とりあえず…何から書こうか…うん、なんか俺、気がついたらびょーいんにいたんだ…。
俺は目を覚ました直後はなんだか起きてるんだか起きてないんだか、そんな感覚をしばらく味わっていたと思う…。
ぼんやりしたまま、寮で頭があつくなった後、暗い場所で見ていた夢のような出来事を思い返していた…。なんかそこには「俺」がいて、
俺はその「自分」と話していたんだ。…あれは夢だったんだろうか、夢にしても、もっともっと違う場所で見ていたような
気がして、俺は、あれを…あー俺、頭わりーからあれをどう説明したらいいかわかんねえんだけど、とにかく、俺は一番大事なことがわかったんだ。
目がさえてきたときは、それを忘れてないかふあんだったけど、なんとなく自分の胸のあたりさぐって、思い返してみて…うん、俺、忘れてねえなって
わかって、安心した。
大丈夫、俺、ちゃんと持っていけたなって思った。メフィストに言われたように
「俺」を理解できたと思う。「俺」の気持ち。「俺」がどんな気持ちで雪男にあんなこといって、
そして、どうして忘れてしまおうとしたのか。と、ほっとして、おおそうだ、このことを雪男に話して、
それで俺達、なかなおりしないと!と思った俺は、そこでようやくはっきり目が覚めたわけだけど、そのとたん、
自分の周りがやけに消毒くさいのと、やけに天井がまっしろなのに気付いて、おどろいて、思わず、わあ、とさけんで飛び起きたわけだ。
え、なにここ寮じゃねえ、いや俺、どうしたんだっけ?確かすげー頭あつくなって、雪男に電話しねえと、っとケータイを手に取ったところまでと、
「俺」を見た変な夢のところまで覚えてたんだけど、でもなんで病院?とあわあわしていた俺に、
「お、なんだあ、やっと目え覚めたのか、調子はどうだ?」
と声をかけた…よく見たら俺の寝ていたベッドの横のイスに腰掛けている、髪の赤いポニーテールの…明らかにサイズあってねえだろうそれ、っていうような
ブラつけたおっぱいのでかい色っぽいおねーさんが
いて、俺は、ぎょっとなってしまった。…ついでにそのでかいおっぱいに思わず目線がいってしまったことは、健全な15歳として仕方ないことだと思う。
しかし、俺はそんなおねーさんに覚えなんてなかったので、
「…え、アンタ誰?」
と俺が聞けば、
「…師匠の顔も忘れるとはいい根性だな、おまえ」
と、すぱーん!とおねーさんが読んでいた雑誌で、頭をはたかれた。けっこう痛かった。仮にも病院で寝てたやつにんなことをするとは…なんか俺好みの色っぽいおねーさんだ、って
少しでも思ってしまった俺を、それは気の間違いだ!と言ってる誰かがいた気がしたよ!
「いっっっってえな!おまえ何すんだよ!?っていうか師匠?なんだよそれ、俺いつあんたの弟子になったの!?
っていうかなんで俺びょういんいるんだ!?確か寮で雪男に電話しようとして…!」
と俺が騒げば、おねーさんは、にゃはは、とふざけた笑い方をして、こう言った。
「おーおー…叩いてもやはり治らないんだにゃあ…。あ、おまえわかってないの?なんかそこのビビリメガネがいうには、」
そこのビビリメガネ、とおねーさんがぴっと指差した先に、俺はそこでようやく気付いたんだけど…俺のちょうど太ももあたりに頭をおもいきし預けて寝こけている雪男がいたもんで、
俺はびっくりして、思わず、うおお、と叫んでしまった。雪男はエクソシストのコートを着たままで、メガネもずれて、何より俺とおねーさんが話してても
俺が叫んだことにもまったく気付かず、
起きる気配もなく、寝こけていた。俺はしばらくその雪男の顔を見ていた。…目のクマが目立っていてとにかく
疲れたような顔してて…俺は、きゅっと胸が痛くなった…。ああ、そうだ、話さなきゃいけないことたくさんある、って思った。
でも雪男は寝ているし、俺は俺で今の状況がさっぱりなので、まずはそのおねーさんの話を聞くことにした。おねえさんは俺に何があって、なんでびょういんにいたのか、って
ことを話してくれた。おねーさんが話してくれたことは、こうだ。
「なんか雪男が言うにはさあ、任務終わった頃に
おまえから電話かかってきて、出てみれば『あたまがあつい、ゆきお』って一言だけ残して通話できなくなったもんだから、雪男の奴もうすげえ慌てて寮に戻ってみれば、
おまえ、倒れてたらしいよ」
「え、ウソだろ…」
俺は信じられなかったが、でも言われてみればケータイで雪男の番号を押して、そこからぶっつんと記憶が途切れていたので、そうだったのかもしれない…。
さらに、おねーさんは、なんかいやに楽しそうな顔して、
こういった。
「んで、そこからの雪男の取り乱しっぷり…あービデオにでも撮っておけばよかったぐらいだ…。別任務で出張の帰り途中だったアタシにまで
電話してきてさ『兄さんが倒れた!目を覚ましてくれない!』ってもう半泣き!で、アタシも病院行ってみれば、雪男、顔真っ青でさ、
正直、ぐーすか寝てるだけのおまえより病人っぽかったな。で、アタシの姿見るなり『兄さんが目を覚ましてくれなかったらどしよう…全部、僕のせいだ…』って
気味悪いぐらい弱気になっててさ。アタシもガラにもなく『だいじょーぶだって』って言ってやったぐらいだよ。
…まあガラにもなくさすがにおまえの心配したわけだけど…おまえが…なんだっけ、けんぼーしょう?ようは記憶喪失、っていうのになったって聞いたときも、
ま、時間経てば治るんじゃにゃい?って思っただけだったのにな」
…なんか師匠とか言ってたのに、何気にひどいなこのおねーさんって思ったけど、まあ一応、心配かけてしまったみたいだし、雪男のことは気づかってくれてたみたいだから、よしとした…。
「っていうか、おまえわかってんの?もう倒れてから三日も寝てたんだよ?一度も目、覚まさなかったし、その間、雪男はずっと寝ないしで…ヘタすりゃ兄弟そろって入院になるなあ、って思ってたところ。
『もうアタシが代わって燐のことは見ててやるから、おまえ寝てなよ。燐が起きたときおまえが倒れてちゃあ、
今度は燐が取り乱すかもしれないだろ?』って言えば、最初は意地はってたんだけど、しばらく経てばこれだもんなあ…」
みっか…俺はその日にちを知って、がくぜん、となった…。どうりですげえ寝たなあって感覚があったかと思えば…そしてその間、ずっと起きてたらしい
雪男。寝ていた雪男の目にはクマもあって…俺はすげー申し訳なく思った。すうすう、と兄の太もも枕にして眠る弟…。眠りはそうとう深かったのか、俺とおねーさんの
会話にぴくりともしなかった。
「いきなり気絶するみたいに、おにーちゃんの太もも枕にして寝ちまうんだよ?アタシはもうしばらく笑いを堪えるのに必死だったね。おもしろかったから、あえてこのままにしておいた」
やっぱり何気にひどいなこのおねーさん、って思ってた俺の顔を、おねーさんは、ふざけた笑いも顔も引っ込めて、いきなり俺をじっと見てきた。俺はなんでそんな
見られるのかわからなくて(っていうか…でかいおっぱいに目がいってしまうんだが…)、とまどっていたけど、やがて、おねーさんはこう言った。
「うん…なんかおまえ、大丈夫そうだな。健忘症は治ってないみたいだけど…でも、目が迷ってない。……アタシはなんでおまえが健忘症になんてなっちゃって、なんで倒れたのかも
わかんないし、なーんか雪男とあったんだろうなあ、ってこと
ぐらいしかわかんないけど、」
おねーさんは、俺の頭に、ぽん、と手を置いた。にしし、と笑うその顔を見て、俺は、この人、きっといい人なんだろうなって確信した。覚えてないから
申し訳ねえけどさ…。
「よしよし、何があったか知らないが、よく戻ってきたな、燐」
「うん…あー…すんません、なんか心配かけたみたいで…」
俺は頭撫でられたので、はずかしくなってしまったけど、俺の言葉を聞いて、おねーさんは、きょとん、と目を丸くしたかと思うと、次には、
「おまえ、なんか素直すぎて気持ちわりぃ…」
って、げえ、って舌まで出しながら言いやがった…。
「ま、おまえも目、覚めたわけだし、もう大丈夫そうだし、ブラコンビビリメガネ君もよおく寝ていらっしゃるし…アタシはもう帰るよ。
任務の報告のこともあるしな」
と、帰ろうとするおねーさんに俺はあわてて言った。
「あ、わりぃ…アンタは…その…」
「んー?あ、アタシか?アタシは霧隠シュラだ。降魔剣はまだまだ預かっておくな。…おまえ覚えてないかもしれにゃいけど、
アタシに勝ったら返すって、前言ってたんだよ。だからまだそれまで剣は没収。ま、思い出したらいつでも挑みにきな」
俺はケータイにあった「霧隠シュラ」という名前を思い出した。そうか、この人が「シュラ」か、と。俺は、まだこの「シュラ」って人と
「知り合って」数分だったわけだけど、いい人だってわかるから、「俺」ってしあわせもんだな、って少し思った。
そうしてシュラは病室を出て行こうとしたんだけど…そのとき、ぴろーん、と変な音がしたかと思えば…シュラは俺達兄弟をいつの間にかケータイ構えて写メっていた…
。兄の太もも枕にしている弟という図を…。そんでシュラは、にやにや、しながら、
「タイトル「ほほえましき兄弟愛」…ってなーんてにゃあ…にゃはは!これで雪男をからかうものがまた一つふえたー。あ、あとで燐のケータイにも
送っておくな!」
って笑いながら今度こそ、去っていったわけだ…なんかいい人なんだろうけど、よくわかんねえなあの人。それとそんな図を撮られてしまったことはしらばく
雪男には黙っておこう…なんとなく、すげえ怒りそうっていうか、一生のふかくってへこみそうだからな…と苦く笑って俺は、寝ている雪男をずっと見ていた。
が、これが困ったことになかなか雪男は起きてくれないわけだ…日記書いてる間に起きるかなって思ってたんだが…。
そうとう疲れてたんだろうな…寝かしといてやりてえけど、そろそろ太もものしびれが…ああ、いてえ…。…しかし、寝ている雪男は普段の大人っぽい顔とは違って、
幼く見える。いや、たぶん、これが雪男の本当の顔なのかもしれないな。
…俺達、こんどこそ「本当」に話さないとな…。全部、あやまって、それで「俺」が雪男のことどんだけ想っているのか…。ああー…なんか
いっぱい話すことや伝えたいことありすぎだ。雪男は「俺」を許してくれるかわかんねえって考えはするけど、でも、俺達は大丈夫だと思う。俺はそれだけは確信できている。
だからさ、本当に「俺」が帰ってくるまで、あ、なんか雪男が起きそうだ!ってなわけで、また結果が出たら日記に書こうと思う。
…たぶん、次が俺の最後の日記になるかもな…。
2011.6.29