夢喰う炎 9

 

●月---日 昨日の豪雨がウソみたいな快晴だった

これを書いてる今はまだ夕方だけど、ちょっと頭痛がしてきたから、晩飯作る時間まで横になりたいので、今日あったことを書いておく。すごく、大事なことを 言われた気がするから…。

今日は日曜日だったけど…なんかさすがに朝起きてから雪男と気まずかったというか…。思い出すのもはずかしくてもだえそうだが、昨日、けっこう キスしたよなあ…と思いながら俺は朝飯食ってた。雪男もやっぱり視線がやや米のついである茶碗に固定されていて、俺の方見れないみたいだった( ちなみに今日の朝飯は具だくさんのトン汁とまた出汁まき卵作ってみた。これだけでもトン汁にいっぱい具を入れたから大丈夫だ)。
そして、食いながら俺はどうやって雪男ともっとくわしく話し合おうか考えていたけど、
「兄さん」
とやはり茶碗に視線を向けたまま雪男が言った。俺はもうドキーンとしてしまい返事ができなかったが、雪男は続けた。
「…実は今日、任務があって…」
雪男はエクソシストとしても仕事があるらしく、今日はどうしても外せない任務があるから、と言った。 しかし、これでも俺のことがあるから任務は減らしてもらっている方らしい。しかし、その事情をわかっているのはフェレスきょうってやつだけなようで、 何も知らない周りから要望されれば行かなければいけないらしい(どうやら俺が今こんな状態だってことは、なるべく内緒のことらしい)。雪男も ほんとタイヘンだよな…と俺は感心しながら、
「一日中か?」
「いや、八時ぐらいには帰ってこれると思うよ」
「わかった…」
「…言っておくけど、絶対、無理しないでね。何かあったら」
「わーってるよ。無理しない、何かあったらケータイに連絡するから」
言ってて俺は少しだけおかしくなってしまい、トン汁飲むふりして口がゆるみそうになるのをこらえた。だって、なんかしあわせな会話であるように思ったからだ。 そして、俺は出汁まきつつきながら、言った。
「じゃあ晩飯も作っておいてやる」
そのとき、ようやく雪男は茶碗から目を離して俺を見てくれた。俺はそれだけでうれしくなってしまうから、自分でいうのもなんだが、安いもんだ。
「…うん」
と雪男は素直にうなずいてくれた。
「おまえ、魚好きなんだよな」
うん、と。また雪男はうなずいてくれた。
「おまえの好きなの作ってやるから…そしたら、「俺達」、」

と、ここまで言いかけて、俺は、あれ?っと思った。
「俺達」の次の言葉が出てこなかったからだ。…これ書いてる今も、このときの俺は、続きをなんて言おうとしたのか…わからない…。

「俺達」?…雪男の好きな飯作って、「俺達」、なんだ?

…たぶん、「今度こそ全部話し合おう」と言おうと思ったのかな、と俺は自分を無理に納得させていた。雪男は、固まってしまった俺を見て、兄さん?と 眉をよせたが、俺はなんでもない、と苦く笑って答えるしかできなかった。

俺は朝少し寝坊してしまったせいで、べんとうが作れなかったが、とりあえず雪男を見送るだけはして、寮の部屋に戻った。 俺はとにかく普通に雪男と会話できて、気分がよかった。でも寮にいてもすることねえしなあ、と思った。いや、まあ、雪男がいたらべんきょー しろって言うだろうけど、やっぱりべんきょーわかんねえし…ていうか、部屋にこもってるのも嫌だしなあ、と考え塾のみんなのことも思い出した。 日曜だから塾はないらしい。じゃあまた月曜日にならないと会えないわけだ。会いたいなって思った。まだみんなのこと思い出してるわけじゃねえけど、 いいやつらがいて、俺のケータイにはそいつらの名前も登録されている。俺は、病院で目を覚ましてから初めてすごくしあわせなような気持ちが した。記憶をどっかへやってしまってから、俺はずっとどこかふあんだったんだろうな。窓の外を見ればすげえ天気よかったから、 俺はちょっとぐらいいいかな、と思って外へ出てみることにした。もちろん、雪男にばれると恐いので、こっそりと、せいぜい 学校の敷地内だけにしようと思ったんだ。学校の敷地のことも俺は忘れていたけど、 来た道を覚えておけば寮にはすぐに帰れるだろうし、とここまで考えて俺はもう実行にうつすことにした。とりあえず、昼ぐらいにぶらぶら したいと思ったので、昼飯作ってみることにした。外へ持ち出せるように、べんとーでも作ろう、って思ったので、すぐにサンドイッチメインの べんとーを作った。ついでにつけるものは、冷蔵庫に残っていたイチゴでいいか、とそれをタッパーに入れておいた。

昼飯持って外へ出てみれば、そりゃあいい天気だった。昨日の雨の名残はあって、緑の匂いがしたけど、それも心地よかった。 それでやっぱり俺ってどっちかっていうと、外で体動かすほうが好きなタイプなんだろうなって思った。まあわかってたけどな。 明らかにずっと机に向かってべんきょーしてるようなこと向いてねえし。…これは雪男に言ったら怒られそうなので、こっそり思っておくだけにしておこう。
俺はそのままなるべく目だたねえように、学校内をうろうろした。日曜日なのでたいていの生徒は寮とか学校のどこかの施設にいるのか、 さいわい、中庭に来るまであまり人とは会わなかった。俺が行ったのは中庭の噴水のある場所だった。…なんかこう、いかにもお金持ちっぽい感じがするっていうか… ライオンみてーな形した銅像からジャバジャバ水流れてた。とりあえず、趣味はびみょーだなと思った。 でも日がのぼってきて少し頭が熱くなったので、俺はそこに座ることにした。そして、そこに座ったとたん、そういえば前、しえみと二人でここに座っていたことが あったような、と俺は、ふと、かわいいしえみのことを思い出した。そういえば、しえみ、泣いてねえかな… 月曜日になったらもっとしえみとも話がしたいと俺は思った。
噴水からはじける水がちょうどよくて、すずしかった。 俺は少しぼうっとしながら、昨日のことを考えた。

好きだよ兄さん。

って雪男の言葉がまっさきに頭に浮かんできて、俺は少し顔が熱くなった。ちいっと冷静になって思い返してみれば、けっこうとうとつに 思えるな、あの言葉、と俺は思ったが、 今の俺は、雪男と過ごした15年。それがごっそり抜けてしまっているので、とつぜんに思えただけなのかもしれない。 雪男にしてみればとつぜんなことでもなんでもないのかもしれない。…一体、雪男はどれだけそういう気持ちを「兄」の俺に 持っていたんだろうか。と俺は考えた。聞いてないから知らないのも当たり前だが、実はけっこう長かったんじゃないだろうか。
過ごした15年の間に、「俺達」はきっと育んできたものがあったはずだ。いや、思い出せてねえけど、絶対あっただろう。
その中で、俺に対してそういう気持ちを持つなんて…よく考えれば雪男はそうとう辛かったんじゃないだろうか。
以前の「俺」が雪男をどう思っていたのか、いや兄弟としか思っていなかったから雪男の言葉にキレたんだろうけど…でもじゃあ、なんで今の俺は…と俺は噴水の 冷たさに当てられながら考えた。
そこで俺はもしかしたら、と思った。今の俺には15年分の兄弟の思い出が抜けているから、だからだろうか、だから大した抵抗もなく雪男を受けれたいって思うんだろうか、って。 それはつまり、今の俺はほんとうに「奥村燐」ではないからだろうか…と俺がものすんげえテツガク的なこと考え始めたときに、ふと、俺は向こう側から歩いてくるものに気付いたんだ。
それは一匹の犬だった(この時点ではただの犬だと思ってた)。
白い…俺は犬の種類にはくわしくねえけど、たぶん、テリアとかいう毛の長いやつ。そして首に水玉ピンクのスカーフを巻いた犬が、ちょこちょこ、歩いて俺に近づいてきたんだ。 眠そうな目してて、俺の側まで近づいて、サンドイッチの入ったべんとー箱に、ふんふん、と鼻を近づけた。俺は、おおかわいいな、と思った。
「なんだおまえ?どっかの迷子か?おーよしよし、こっちこい」
と俺はその時点ではこいつは犬としか思ってなかったもんで、ひょい、と抱えてヒザの上に乗せてみた。その途端、犬(だと思ってたもの)がこう言った。
「…本当に何も覚えてないんですね…」
間延びしたような、眠そうな声だった。俺はかなりびっくりしたぞ、クロのこともあるけど、でも動物がいきなりしゃべるのって普通に考えて心ぞうに悪くね?
「…うわー…びっくりした…なんだ俺は犬の言葉までわかるのかよ」
と俺が言えば、犬は、
「いえいえ、私はあの使い魔とは違いますよ。私の言葉は聞いていれば誰にでも聞こえます」
とゆーぜんと言った。
「…アンタなに?」
「いやいや、上司の顔まで忘れてしまうとは、由々しき事態ですね」
ふう、とため息ついて、首をふるふる、してみる犬。え、ちょっとまってくれ俺の上司(ってこたあエクソシストだよな)って犬なわけ?と俺がぽかんとしていると、 いきなり、ピンクの煙をぼふん!と上げて、あれ犬がいねえ、と思ったら、正面にかなり長身の…ピエロみてえな…長くて白いマントを着てシルクハットまで かぶって、水玉ピンクのスカーフを巻いた、変なカッコウしたヒゲの男が、いた。眠そうなクマのあるタレ目が俺に向けられたとき、俺はそのすげえ姿みて、思い出した。
「アー!アンタあれだ、病院で雪男と俺のこと相談してた!」
「…ええ、まあ…そうなんですが……あなた思ったより重症なんですね…」
と、そいつはにやけ顔をちょっと困った風にして、俺に説明した。この怪しい男がいうことをまあ信じてみるに、こいつはメフィストフェレスといって(あ、そういえば ケータイに登録してあったな)、エクソシストでこの学校の理事長、俺達の上司、そして俺と雪男の後見人なのだという。…正直、ちょっとうさんくさいなあと思ったが、 俺は記憶がすぽんと抜けている身なので、そうも疑えるような立場でもねえし、そういえば雪男が仕事のことでフェレスきょう、ってやつの名前を出してたし…と考え、俺は とりあえず、こいつはメフィスト・フェレスという以前から俺の知っている男らしい、と認めることにした。俺がとりあえず、ケイカイをとくと、メフィストという ピエロ男は、また、ぼふんと犬に化けた。こっちのほうが敷地内を行動するのに都合がいい、と言っていた。そして、
「お隣いいですか?」
と言っておきながら俺の返事を待たずに、ひょい、と隣に腰掛けた。俺はしげしげとメフィストを見ていた。変なカッコウもあれだが、犬にまで化けれるなんて、 エクソシストってすげえ、と俺が思ったのを読んだように、
「言っておきますけど、犬に変身できるのは私だけですよ」
とメフィストは言った。へえ、エクソシストって個性的なんだー、と俺は思った。
「さて、記憶のない奥村君、私はあなたの後見人としてあなたがどのような状態であるかは把握しておかねばなりませんので、ああ、そう警戒されないで、 あなた方の後見人なんですから、あなたのサタンの血のことも知ってますし、むしろそれを保護している身ですので。まあとりあえず、色々お話しようじゃないですか… というわけで、まずはそのサンドウィッチをください」
何がそういうわけなのか…と俺は思ったが、確かにサンドイッチは少し多めに作ってきていたし、犬の姿ならかわいいので、あげることにした。 抜け目なく、「ツナがあればそれがいいです」と言ってきやがったが。まあ素直にツナをあげた俺も俺だけどな。そして、もふもふ、それを食っている犬(でありヒゲのおっさん) のメフィストと並んで座りながら、俺たちは、「おしゃべり」した。まあ…始めは今日の天気のこととか昨日の天気のこととか…なんかどーでもいい会話ばっかりされたけどな…。 しかし、天気のいい日に犬と並んですわってサンドイッチをかじっている俺…なんとも呑気な光景だよなあ、とメフィストのどうでもいい会話に適当に、うんうん、と頷いていると、 とつぜん、メフィストはこう言った。
「いやあ、しかし、こんな天気のいい日に、サンドウィッチをかじって私とおしゃべり…健忘症だというのに、あなた呑気ですねえ」
と、まるで俺の心読んでるみてえだった。俺は、なんだか呑気にしているのを責められているように感じて、ちょっと、むっとした。そういうおまえこそ俺と並んでサンドイッチ かじっているじゃないか、と(ちなみにツナを食べ終えてしまえば、今度はハムのが欲しいといった)。
「べ、別にいいだろう!部屋にこもってばっかじゃ、ゆーうつなんだよ!ちょっと外へ出たかったんだ!」
と言い返せば、
「まあまあ、自由にふるまう身を責めているわけではありませんよ、まあバレれば弟さんには怒られるでしょうけど」
アヒャヒャ、と笑う犬を俺は、その毛をむしりとってやろうか、と半ば本気で考えたよ…。
「ところでどうです?何も覚えていない状態で弟さんと一緒にいて、なにか不具合はございませんか?」
いかにもきょうみしんしんといった様子でメフィストはしっぽを、ふりふり、とゆらした。くそ、中身がおっさんでなければ かわいいのに…と俺はメフィストの言葉に、昨日の…うん、まあ昨日の俺と雪男にあったことを 思い出して、顔が熱くなってしまったが、たまごのサンドイッチを頬ばることでなんとかごかました…。
「べ、別に…ふぐあいとかそんなんはねえと思うけど…うまくやってるよ…。まあ、まだ話し合いとかしなきゃいけねえけどな…」
「ほう、何かありましたか?」
「かんけーねえだろう!」
「何をいいますか、私はあなた方の後見人だというのに…」
ふう、とわざとらしいため息をついて、メフィストは言いやがった。俺は言葉につまってしまった。いっくら後見人だろうが上司だろうが…あのことをこんな得たいのしれない奴に 話すことが色んな意味で危険だろうことは俺にだってわかるからな。しかし、なおも、きゃんきゃん、と言っている犬をだまらせるために、口にたまごのサンドイッチを おしこんでやった。むぐ!と犬はうめいたが、すぐに、もぐもぐ、と食ってしまった。よく食う犬だ、と俺は呆れながら自分の分のサンドイッチを口に入れるも…正直、あまり 食欲がわいていない、とその時に気付いた。俺が腹に入れたサンドイッチは結局、二切れだけだったんだ。
「いらないので?」
首をかしげてメフィストが聞いてきたので、俺は、うん、とうなずいた。ならば私にください、と言われたが俺は残すのも、もったいないので結局、全部犬にあげてしまったわけだ。 犬が最後のトマトとレタスのサンドイッチを食ってしまったときに、メフィストは言った。
「…なんといいますか…今のあなた、不安定ですね」
え、と俺は声を上げていた。そんな自覚はとんとなかったのだが、いわれてみれば、俺は不眠症みたいになったりかと思えばよく寝たり、食欲が戻ったり、なくなったり。 極端なことを繰り返している。…生活のことだけじゃない。記憶を失くす前の「俺」のこともふくめれば、今の雪男を受け入れたいという俺と雪男を拒絶した「俺」。 なんだかまるで正反対だ、ってそのとき、俺は気付いた。
「それは、あなたが根本的に自分というものを見失っているからです」
俺の考えていたことを言い当てるように、メフィストは言ったんだ。それは俺も思っていたことではあった。 塾でべんきょーしても、さっぱりわからず、いまいち、エクソシストという人達のこと、この世界の価値観も、理解できないのが…。
「…私は、あなたのことは、生まれたときから知っていますよ。しかし、あなた自身のことはまだこちらに入学してからしか知らない。それでも、思うのは、あなたは 自由であり、そして同時にとても束縛された存在である、ということです」
束縛、と聞いて、俺は雪男に聞いた「俺がサタンのこども」であるということを思い出していた。
「しかし、」
メフィストは、残りのイチゴをほおばってから、こう言った。
「今のあなたはただただ自由ですね。立場はともかく、とにかく思考というものが。当たり前ですか、何も覚えていないんですから。縛られなくて当然だ。つまり 今のあなたはとても自由だ。自分の身の上のことを知っているだけで理解はしておらず、「奥村燐」のことを知っているだけでその先に踏み込もうとはしていない。 今のあなたは以前の自分のことをまるで人形劇の人形のように、見ているだけです」
…俺はメフィストにこう言われて言葉もでなかった。自分ではまるでそんなふうに思ってなかったのに、なんだか全部を見透かされたように感じたからだ。
「さて、今のあなたは「思考の自由」を得て、つまるところそれは、「欲望の自由」を得ている、ということでもあります。 …まるでそんなふうになることを、望んでいたかのように、ね」
「おい、待て俺は…!」
そんなぬいぐるみを欲しがる子どもみたいな、欲望なんて持ってない、と俺は言い返したかったんだけど、すかさず、メフィストは言った。

「ねえ、あなた、今、青い炎はうまく操れていますか?」

思えばメフィストの本題ってこれだったんだと思う…。…俺は最初、意味がわからなくて首をかしげた。しかし、メフィストがいうに、俺は普段、こうまけん、というもので力を封印していて(これも雪男から聞いていた、そしてその 「こうまけん」は今の俺がこんな状態であるため、「霧隠シュラ」という人に預けてあるそうだ)、でも刀で抑えられない分、ある程度の炎をまとえる、と。 メフィストは、
「少しだけ、炎、出してみてください。なあに人目は心配いりません、今、結界をはりましたから、周りの人達は気付きませんよ」
と言った。
俺は、どうしたらいいかわからなかったけど、炎をまとう自分をイメージだけしてみたが、手を見ても、体を見ても、何も起きてはこなかった。そこで、俺は、あれ? って思った。
今でも、思う…青い炎ってどうやって出すんだ、って…。
俺が炎が出せなくて固まっていると、メフィストは言った。
「やれやれ…これは本当に思ったより、重症、だ」
「あのさ…」
俺は、思わずメフィストに言っていたんだ。
「夢を、見るんだ」
「ほお、どのような、夢で?」
「…青い炎の夢。炎はいつも夢を燃やすんだ…俺の夢を、いつも…」
メフィストに言うつもりなんてなかった。そもそも今日、メフィスト・フェレスといううさんくさい男のことを知ったばかりだ。メフィストは、しばらく 黙っていたが、やがてこう言った。
「そのこと、弟さんには?」
「いや、まだ…タイミング、逃がしてて…」
「またそのような炎を見るようでしたら、すぐに私か弟さんに言いなさい。でないと、あなた、呑みこまれますよ」
炎に。
とメフィストはいってから、ぼーぜんとしている俺にかまわず、ひょい、と噴水から飛び降りた。サンドウィッチごちそうさまでした、おいしかったですよ、と。 ちょこちょこ、と犬の姿が遠ざかるとき、メフィストはもう一度、俺を振り返って、こう言った。
「ねえ、奥村くん。「自由」というのはですね何かに誰かに縛られていないからといって「自由」であるというわけではありませんよ。あなた、本当に今の「自分」 のままで弟さんとこれから先も共にいていいと思っていますか?…いませんよね、以前のあなたはそういうことを、よおく、心得ている「悪魔」でしたから。無自覚でしたけどね。ああどうも、説教くさくて ダメですね。そういうのは、あなた方の「養父(ちちおや)」の役目でした…。しかし、奥村くん、後見人としてもう一言、」

たとえ、苦しくても、よく、お考えなさい。

と、最後にメフィストはそういって、ふい、っと影みたいに姿を消してしまった。



メフィスト・フェレスは何が言いたかったんだろうか…。わかるような、わからないような…。でも、俺は、雪男が帰ってきたらいい加減、夢のことを言うと思う…。 そんで、雪男の好きな晩飯作って、それで…俺達、ああちくしょう…やっぱり「俺達」どうしたいか、思い出せない。
…少し頭痛がましてきた…でも、メフィストのいうように、俺、考えなきゃいけないんだろうか…苦しくても…。そういえば、勝呂も
「むしろ安心したで…おまえがそないにも思いだそう、思いだそう、とがんばっとるみたいやから。 それだけで、おまえは前とナンも変わってないってことぐらいわかるわ」
って言ってくれていたじゃねえか。俺は、勝呂のことも裏切りたくはねえ。

でも、晩飯作る時間まで、少し、休もう…。少しだけ…ちょっとだけ寝ておこう。











2011.6.25