『燐、来年の2月なんですけどね、とある舞踏会に呼ばれましてよければ燐も行きませんか?あなたも、もう16歳ですから
そういう社交の場のことを学んで損はないですし』
去年の誕生日にプレゼントと共に贈られた言葉。正直、プレゼントよりこの言葉のほうがずっとうれしかった。たとえ社交の場を学ばせるための意味でもいい。
サタンを倒す武器になるためということは三歳の頃から聞かされているが、
それとは関係ないところでずっと娘として妹として育ててもらった自分が少し女に見てもらえている気がしてうれしかったのだ。
燐はメフィストに告白するつもりはない。妹として娘としてしか見られていないのはわかっているし、
自分のような生まれてたった16年の子どもが何百年生きているかもわからない悪魔に相手にされるわけがないとわかっているからだ。
一時期は色々悩んだし苦しんだし今でもそうだと思うけど、そっと想い続けているだけでも幸せなんじゃないかと、落ち着いてきているつもりだ。だって自分はサタンの娘だ。
半分悪魔だ。そんな自分に養父がいて弟がいて仲間がいて、メフィストがいて、そしてメフィストを好きだという気持ちを抱けているだけでも恵まれているんだと思っている。
そう思っているし割り切ってきたつもりだが、それでも、そんな風に誘ってもらえるとやっぱり「女」としてうれしい。止まれないと思ってしまう。どんどん好きになってしまう。
正直、ほんのちょっぴり期待してしまうのだ。
ずっと娘として妹として育ててきてもらった自分が少し女に見てもらえている気がしてうれしかったのだ。
『そこはご心配なく私がエスコートして差し上げますから』
思い出して思わずへらっと頬が緩んでしまう。
「姉さん、顔がだらしない。そんなんじゃあ塾生達にも示しつかないよって何度言えばわかるの?」
祓魔の職員室でにやにやしている姉の頬を隣の席の弟がボールペンでつついた。それにはっと我に帰って無理矢理顔の筋肉を引き締めるがうれしいものはうれしい。
へらっとだらしなくまたにやけてしまう姉の姿を見て弟は、はあー、っと諦めのため息を吐いた。
そんな燐の様子を他の講師達は「若いっていいねえ」と微笑ましく見守っている。
雪男にとっては微笑ましいなんてものじゃない。ドレスを買ってから一週間ずっとこんな調子だ。当然塾生達にも示しがつかないというか
騒ぎの種になるのだ。主に志摩のせいで。事実三日前に「燐ちゃん先生、なんや最近嬉しそうですねえ〜!……もしかして彼氏でもできたんですか!?
いやあショックや〜!」
と頭の中までピンクの志摩に騒がれて「いやあ、別に彼氏っていうんじゃないんだけどさ〜」と調子に乗りまくった燐の返事に一番ショックを受けていたのは勝呂であった。
余談だが、燐がサタンの娘だという事実は祓魔師の世界では周知のことなので最初は「寺を衰退させたサタンの娘になんでエクソシズムを学ばなアカン。おまけにバカやないか」
と燐を敵視し反抗していた勝呂だったのだが、燐の講師としての健気さや一所懸命さや強さとか、塾生を守る確かな誠実さを任務や実習で目の当たりにしてきて、最近では認めてきている…というか、何気に
勝呂君って姉さんに一目惚れだったんじゃないかな…と雪男は推測している。かわいそうに。燐は現在進行形でメフィストに夢中である。もちろん彼氏でもなんでもないし、
望みのない片思いなわけだが。
なんというか雪男としてはさっさとメフィストには見切りをつけて、できれば勝呂君とくっついて欲しいなあ、と思っていたりするのだ。
勝呂はガラは悪いが
優秀だし、真面目で誠実で何より絶対燐を大事にしてくれる、そんな男だと思う。絶対、姉は幸せになれる。将来、ウエディングドレスを着た姉の横には勝呂君がいればいい。
と願っているぐらいだ。去年の秋、修道院の物置部屋の片付けの最中にぎっくり腰になってそれがきっかけで「もう年には勝てん」とあっさり聖騎士の座をアーサー・O・エンジェルに譲り
、前線を退きながらも腰の調子が戻ればまた臨時の祓魔師として現場に出ることもあろう養父だって、勝呂が相手なら喜んでくれるはずだ。現に「あとはもう燐のウエディングドレス姿を見てバージンロード一緒に歩いて孫の顔見て、その孫を世話しつつ隠居生活おくるわ〜」
と残りの人生設計までしているんだ。だからさっさとメフィストのことは諦めたほうがいい。
だって現状望みない恋をしている姉がどうしたって可哀想で。
それでも今現在、嬉しそうにしている燐を見ると雪男も嬉しくなってしまい、同時にとてもやるせない気持ちにもなる。
「まあ…せっかくの機会なんだし…楽しんできなよ姉さん」
「おう!」
元気よく返事をする燐はその恋の先には何も実るものがない、とわかっていながら見ないふりをしているようで、雪男としては目を覚まして欲しいような気にもなるのだが。
それでも燐がメフィストの一挙一動に幸せになるのも事実。でもその先には失恋しかないのもきっと。
…事実、かな…。
いつか、実らない恋の残骸に燐が泣くことは目に見えている。でもその時がきたら全力で慰めて励ましてあげればいい。だから今だけでも幸せな気持ちに浸らせておいていいじゃないか。
と雪男はまだにやにやしながら頬を赤く染める姉を苦笑しながら見つめているのだった。
燐は舞踏会の日までそわそわそわと落ち着きがなかった。普段からそうだが食事には充分気を使い、何気にお肌にいい食材中心に献立をし、
早寝早起きを実行し、今までやったこともなかったパックというものまで出雲に教えてもらってやってみたりとか。そんなそわそわしている燐を見てメフィストがこっそり苦笑していたことに気付いてはいなかったが、
とにかく舞踏会の日まで燐はとても幸せだった。嬉しかった。
そしてついに当日。燐はうっかりしていたのだがウィーンと日本では当然時差が大きいため、
日曜日のまだ夜も明けていない早朝というかほぼ夜中に起こされ、すぐに燐はメフィストの呼んだヘアメイクアーティスト(金髪美女だった)と一緒に部屋に押し込まれた。
「キレイな大人のレディにしてもらいなさいね☆」
というメフィストの言葉にもう声が出そうなぐらい舞い上がった燐は、この金髪美女はメフィストの好みなんだろうか…という仄かな嫉妬もどこかへ吹っ飛んでしまったぐらいだ。そして、
何気にそのヘアメイクアーティストはとても気さくな人だったのですぐに仲良くなり、メイクもヘアアレンジもできない燐なのでとてもありがたかった。
燐の白い顔に初めてのファンデーションがのり、さらにメイクが施され、髪をキレイにキレイに手入れされる。そして艶のさらに増した長い髪を器用なプロの手が、
サイドから逆サイドまで編み込みのラインをつくり、トップの髪を内側にまとめ上げた。
後れ毛やスタイルが崩れないように、といい匂いのするスプレーをかけてもらいおまけにキラキラ光るゴールドのラメまで髪にふってもらう。
そうして長い髪は編み込みのアップにしてもらった。前髪は横に流してもらえた。
すげえこれでローマ行ってみたい…とこれからウィーンに行くというのに少々別の妄想をしていた燐に、
金髪美女はヘアアクセサリーは何かある?と尋ねてきたので、
「これ、つけてくんない?」
と、16歳の誕生日にメフィストに貰ったバレッタを手渡した。
それはバラの花を模したもので、ピンクダイヤモンドでできた花びらに囲まれるように真ん中にはブルーサファイアが埋め込まれている。
貰ったときもちろん一目で気に入った。それまでアクセサリーなんて持っていない燐でもうっとりするような代物だ。ちなみに当然のように全てが本物の宝石で値段にするとそれはもう…高価なものなのだが、
燐はそこまで知る由もない。それに燐にとって大事なのは値段とか豪華さとかそんなのではない。メフィストに貰った。それが燐の中で一番重要なことなのだ。
青いものは身につけないつもりだったが、これひとつだけならいいだろう。
つけたら喜んでもらえるかな…。
甘酸っぱいような気持ちを抱いて大事に仕舞ってあった箱から取り出し、髪につけてもらう。ブルーサファイアがあなたの目にとてもよく合うわ。と褒めてもらえた。
そしてメイクの最後の仕上げをされドレスを着させてもらう。もちろんその下に身につける下着は先日雪男をつき合せて買ったものだ。別に見せるわけじゃないが、ほら、以前の事件みたいに万が一ということもあり得るし。と
例の素っ裸とガキっぽいパンツをメフィストに見られた事件を思い出し、まだチークも塗ってない頬を赤くさせてしまった。
ようやく箱から解放されたドレスは、よくよく見れば胸元のラインとスカート部分に縦に走る金糸の刺繍は小さなバラの形だったと気付いた。
偶然だがバレッタの形と同じでバランスがよくなったように見えた。
そうしてすっかりできあがった自分の姿をおそるおそる姿見鏡で覗き込んでみる。
「…うわ、俺じゃねえみたい…」
そこには燐も知らない燐の姿がある。
細い肩と鎖骨と背中はぎりぎり肩甲骨まで見えていて首筋まで抜き出るほど白く、顔ももちろん雪のように白くて、メイクはしっかり施されているがナチュラルで、
燐の若い顔の線を少し大人っぽくしてくれているようだった。口紅なんて塗ったこともない薄い唇にはバレッタのピンクダイヤモンドに合わせたのか、
薄いピンク色でつやつやしている。なんか揚げ物食った後みたい…と燐自身色気のないことを考えていたのだが。きゅっと締まってでもまろやかな形を描く頬にはふんわりとピンクのチークが乗っている。
目元もメイクされさらに大きく華やかに見える。そんな目元の中にあるいつもの青い目は、きょとん、と自分を見返していた。
とても素敵よ、と金髪美女も燐の出来には満足そうだった。
なんか恥ずかしい…!
燐はすっかり変った自分の姿におろおろしてしまった。しかしもたもたしてはいられない。部屋の外ではメフィストが待っている。
でもどうしよう恥ずかしい、と迷っている間に金髪美女は「楽しんできてね」とにこやかに去っていく。と同時に、美女が気付かないぐらい素早く開けられたドアの隙間から身をくぐらせた緑色のトンガリが一匹。
「あ、アマイモン」
「燐、やっと終わったんですね、ってうわー!」
どうやら外で燐の支度が終わるのを待っていたらしいアマイモンは部屋に入ったと同時に燐の姿を見て、珍しく目をまん丸にさせた。普段無表情なのでそれだけでも大きな変化だ。
「燐すごい!生クリームいっぱいのせたシフォンケーキみたいです!」
「…………お、おう、ありがとう」
果たしてそれは褒め言葉なのかどうなのか。
食べ物至上主義のアマイモンからしたら最上級の褒め言葉なのかもしれない、と思い一応お礼を言っておく。
アマイモンは何故かじーっと燐を覗き込みながら鼻先がくっつきそうなほど顔を近づけてきた。
さすがにちょっと驚いてのけぞってしまう。
「な、なんだよ?」
「うーん…?」
そしてこれもどうしてか、くんくん、と鼻を動かして子犬みたいに燐の臭いを嗅ぎだしたのだ。
「…燐、なんか甘い匂いしますね…本当にケーキみたいです」
「匂い?え、そうかー?」
くんくん、と燐も自分の匂いをかいでみると確かにいい匂いがした。そういえば金髪美女にヘアスプレーとか香水みたいなものまでつけてもらったのでそれの香らしい。
ちょっと強すぎたのかな、と考えているうちに、目をまん丸させたままのアマイモンが突然、あーん、と口を開け、
ぺろり。
「ひぃ、ぎゃ!?」
なんと鎖骨を舐められた。
「燐とってもいい匂いします…おいしそう」
鎖骨をぬるっとした長い舌が這う未知の感覚に固まっていると、いつの間にかアマイモンの手が燐の細い腰に巻きついていた。呆然としている間にまたぺろり。ぎゃあ!と色気のない声が漏れるが、おいおいおいちょっと待て、と燐は己を叱咤する。
「ちょ、アマイモン!?どうしたんだよ!?は、はなれろ!」
ぐぐぐ、とけっこうな力を入れて近づく顔を押し返そうとするが腰に巻きつく手に力が入って、ドレスが破けるかもしれないと思うと身動きできない。押し返えされそうなアマイモンはいつもの無表情だが、
そのはず、だが。なんか違う?と燐は違和感を覚えた。覚えるのだが一体何が変なのかわからない。ただいつものアマイモンではないことは確かである。いや、
いつものアマイモンじゃなければこいつはなんなんだ?と考えるが、正体すらつかめないような。ようするに、さすがにちょっと恐くなった。燐の手を力ずくでのかし、
今まさに鎖骨でも食い破るかと思えるぐらい、あーん、と大きく口を開けられ。
思わずぎゅっと目をつぶってしまう。
「何をやっているこの愚弟!!」
しかし覚悟した痛みは鎖骨に走ることはなく、代わりにごきん!と頭蓋骨でも割れたんじゃないかというぐらいの音がした。目を開ければ思い切りメフィストにトンガリごと
頭部を殴られ床に沈んでいるアマイモンがいた。
「燐、大丈夫ですか!?この愚弟に何もされてません!!?」
と、床にめりこむアマイモンをふんづけて(ぐえっと声がした)まだ呆然としている燐の鎖骨にアマイモンの涎の痕があるのを見つけたメフィストは常になく恐い目つきで、
ハンカチを取り出しそこを拭いた。それはもうごしごしと。ちょっと痛いぐらいだが悪魔の回復力ですぐに赤みは消えてしまう。
「まったく出てくるのが遅いかと思って来てみれば…なんのつもりなんだアマイモンは!?」
ついでに足元のめりこんでいる物体をもう一回ふんづけておく。ぐえっとまたカエルの潰れたような音に続いて「だって燐からいい匂いが…」と言い訳するところは見上げた根性である。
「い、いやメフィスト俺は大丈夫だって。あれだよ、シフォンケーキと間違えたんだろ?」
と鎖骨を拭き続けるメフィストの手を止めるとメフィストは、あなた呑気ですねえ、と呆れていた。そこではたと燐は気付く。メフィストはいつものような奇抜なピエロのような格好ではない。
なんかドラマとか映画でよく見るような…これは…。
「…えーっと………エビ服?」
「…違います、燕尾(えんび)服ですよ」
燐の残念な間違いにがっくりとしつつ、燐のメイクを施したそれはそれは可愛らしくなった顔がみるみる赤くなったのを見て、メフィストはこっそりほくそ笑んだ。
もちろん、由緒正しいウィーンの舞踏会に行くのにさすがのメフィストもいつもの格好で行くわけがない。正式な舞踏会は燕尾服にホワイトタイがドレスコードになっているのが通例である。
メフィストもそれに習って正式な燕尾服を着込んでいてカフリンクスとスタッズは揃いの白蝶貝。ポケットチーフはメフィストのこだわりなのか、見慣れたメフィストピンクの水玉だったが。
サイズはもちろんやたら身長の高いメフィストにもぴったりで、
長い足が更に強調されているようであった。すげえけっこう似合ってる、と燐は思うがもごもご口を動かすので精一杯で何もいうことができない。
そんな燐の初々しい姿を見て、メフィストは、くすり、と笑うと、そっと耳元で、
「燐、とってもキレイになりましたね」
と、うっとりと囁いた。
まさに異国のお人形のようだ。メイクを施された顔は常にはない大人っぽさが滲み出ていながらも彼女らしいあどけない魅力も残していて、ふんわりピンクの頬や唇や、
長くて黒い睫はさらにふさふわ整えられていて、その下できょときょと動く丸い青い目。
長い髪は編み込みアップされ、鎖骨やうなじ肩甲骨まで見えているロングドレス。白い金糸の刺繍と宝石のドレスは燐にとてもよく似合っていた。
そして健康的な肩から背中に鎖骨はとても魅力的だ。…ここでうっかり風呂での事件を思い出してしまっても許して欲しい。
今だけは。
「…このバレッタつけてくれたんですね…似合ってますよ」
燐の纏め上げた髪の左側に輝くバレッタにそっと触れた。こくこく頷く燐に対して溢れる温かい気持ちは存外心地よくて、燐をこの屋敷につれて着たばかりの頃のことを何故か思い出す。あんなに
小さくてちんちくりんだった女の子が。こんなに素敵な女性になるとは。感慨深い。
メフィストに囁かれバレッタにそっと触れられて、ピンクの頬をリンゴのように真っ赤にさせて、あ、え、ウ、と意味不明なうめき声を上げる燐を優しく見つめる。
そして、とりあえずアマイモンの上から退くと、メフィストは左腕の肘を曲げ、どうぞ、と燐に差し出した。首をかしげる燐に、腕を組むんですよ、と苦笑しながら伝えれば、
赤い顔がますます真っ赤になる。
「手を添えて。そうそう、肘よりもう少し、手に近いところに添えるように」
「こ、こう…?」
燐の白い手がメフィストの肘と手の間ぐらいにそっと添えられる。緊張しているのか今にも袖をぎゅっと握ってしまいそうなほど震えているが力を抜かせるためにそっと手の甲に、右手を重ねた。
ぴくん、と過剰に反応する手が、小さい頃とは違って長く美しい指を持って成長している。
「さあ、背筋を伸ばして、参りますよ。ちょうどいい時間ですしね」
どうやらウィーンでの時間に合わせてあるらしい銀の懐中時計を取り出して、メフィストは背筋を伸ばしなさい、と言う。燐は反射的に背筋を伸ばした。なんだか視界が高くなった気がするなあと思えばそういえば履き慣れていない白いヒールを履いているのだ。
よろけないように慎重に。でもメフィストの腕が支えてくれているのかと思うと頼もしかった。
「では、」
「あ、アマイモン、帰ってきたらシフォンケーキ作ってやるから、もう俺の鎖骨噛もうとするなよ!」
ドアに無限の鍵を差し込むときにそんなことを床でむすっと頬杖をついていた(額から血が出ているのは見なかったことにしよう)アマイモンに投げかける。留守番がよほどいやだったのかアマイモンは、ひらひら、と手を振っただけで「いってらっしゃい」は言わなかったが「
ケーキ絶対ですよ」というのは忘れない。帰ってきたらとりあえず説教をしよう、とメフィストはこっそり決めた。
扉に鍵を差し込むのを前にして、燐は一度深呼吸をする。ダンスの練習もした。自分じゃないみたいにキレイにしてもらった。でも、
慣れないヒールのようにどこかがぐらぐらしている。そんな燐の不安を読み取ったかのように、メフィストは、
「誇り高くいなさい。あなたはとても美しいのですから。…では、参りましょうか、私のお姫様☆」
と囁いた。
こくん、とひとつ頷くので精一杯だ。
ずっと娘として妹として育ててきてもらった自分が少し女に見てもらえている気がしてうれしかった。
燐はメフィストに告白するつもりはない。妹として娘としてしか見られていないのはわかっているし、
自分のような生まれてたった16年の子どもが何百年生きているかもわからない悪魔に相手にされるわけがないとわかっているからだ。
でも、そんな風に言ってもらえるとやっぱり「女」としてうれしい。止まれないと思ってしまう。どんどん好きになってしまう。
正直、ほんのちょっぴり期待してしまうのだ。
もっともっと好きになる。本当は昨日よりもさっきよりも、メフィストが好きになる。
俺、ほんとにメフィストのこと好きなんだ。
ほんとに好きだ、でもそんなに優しくしてもらえると嬉しいのに困ってしまう自分もいる。だってもっともっと好きになってしまうのだ。
ほんのちょっぴり期待してしまうのだ。
その黄色い緑の目で自分を見て欲しい、と。
「私を好きになって欲しい」と。
2012.6.21 ウィーンの時差とかてきとうすぎたのでおかしかったらすみません。一応舞踏会開始時間はウィーン時間土曜日の夜10時ということになってます…